息を殺して、気配を消す。
間違っても相手の視界に入らないように注意しながら跡をつけ、様子を伺っていると脳内に声が響いた。
《この緊張感…スリルがあってたまんないよねぇ!》
同期が固有する力、テレパシーだ。
私は眉間にシワを寄せ、呆れきった表情で同期の顔を見た。
《あのねぇ、スリルを味わうためにやってるんじゃないんだよ?》
《わかってるよう!先輩の謎に包まれたプライベートを知るためだよねっ!彼女とかいるのかな〜?》
「わか…っっ」
わかってねぇだろ!!!と叫びそうになって慌てて口を抑える。
ターゲットに視線をやったが、気付いた様子はない。
ゆっくりと心呼吸をして同期を睨みつけた。
《あのねぇ!プライベートじゃなくて、敵か味方かを見極めるために跡をつけてるの!彼女云々じゃないの!》
《えー!知りたいじゃん!だってイケメンだよ?スパダリだよ?高身長で紳士でハイスペックで皆から慕われてる人気者!!》
《ああいう人種苦手なんだよなぁ…胡散臭いだけじゃん。笑顔の下で絶対人を見下してるんだよ》
《そんなこと言ってぇ!ほんとは気になってるんじゃないのぉ?》
《なってない》
「ムキになってるところが怪しぃ〜!ほらほら正直になりなよ〜!ねー?」
「だーかーらぁ!」
途中からテレパシーではなく、直接声に出して会話していることに私達は気がついていなかった。
「愉快な探偵ごっこはこれで終わりかな?君たち」
かくして、緊張感とスリル漂うはずだった尾行は、はじめからバレていたことと、私達が騒いだことによってあっけなく終了した。
「ぎゃあああーッ!!!なんで空ぁーッ?!」
「ひぃぃいーッ!!!!転移先間違えたぁーッ!!!」
声をかけられたことにびっくりしすぎた私は、とにかくここを離れなければという一心でテレポートを発動させたが、慌てすぎたせいで移動先はまさかの空。
スカイダイビングする羽目になってしまったのだった。
その後、命の危険性を感じてすぐに冷静さを取り戻し、無事に自宅にテレポートできました まる
11/12/2023, 11:10:13 AM