絢辻 夕陽

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私は空と空の狭間と言う空間で立ちすくんでいた。

空と空の狭間とは例えて言うなら
朝日が登った時の輝いた空と深く蒼に染まった昼の青空。
昼間の青空から赤みがかった夕焼けの空。
夕焼けの空から星が燦々と輝く夜空。

そんな空と空の狭間の空間とは実に曖昧かつ微妙なバランスで成り立っている。

私はそんな「空と空の狭間」という空間に住んでいた。いつから住んでいたのかは最早今となっては思い出せない。

そんなある日の事だった。
空と空の狭間に一人の少年がやってきた。
私はこの空間で私以外の人と言う存在に出会った事がこれまでに一度たりともなかったので戸惑った。

その少年はまだ幼くもどこか聡明そうな少年だった。この空間に初めてきたにもかかわらず落ち着いた様子で周囲を伺い、今自分はどのような状況なのか頭の中で考えているようだった。

私は困惑しながらも「どうして、こんな所に来たの?」と声をかけてみた。

少年は「わかんない。でも、お姉ちゃんずっとここに独りでいたの?」と私に問いかけた。

私は「私はずっと今まで独りだったのかな。私にはもう思い出せないよ。いつからここに住んでいたのかすら思い出せないのだから。」と答えた。

本当にいつからこの空間に住んでいたのか。
気づいたらこの曖昧な環境下に存在していたのだから。

ならこの少年は何処からやってきたのだろう。
私は少年の方を見ながら思案した。
この少年はたった独りでやってきたのだ。
だとしたら、何か必ず理由があるのだろう。

この少年はまだ幼い。にも関わらずこの空間にやってきたという事は私の様に「選ばれた」のだろうか。

私は元々地上で普通に生活をしていた、はずだった。
だが気が付いたらこの空間に存在していた。
私はいつからこの空間に存在していたのかは覚えていない。だが地上にいた、という事だけは覚えていた。ならこの少年も同じなのだろうか。

そんな事を頭の中で反芻していると少年が「ここって本当に何も無いの?お姉ちゃん一人だけなの?」
どこか不安そうな表情で話しかけてきた。

「大丈夫。お姉ちゃんはね、ずっと此処にいるから。独りじゃ無いよ。」
そんな問題じゃ無い。わかっている。
だけどそんな言葉しか思いつかない自分がもどかしかった。

少年はさらに不安そうな表情になり、
「おうちに帰りたい。」
と今にも泣き出しそうになっていた。

私は仕方なく取り敢えず目を瞑り深呼吸するよう少年に言った。
どうやらそれで落ち着いたらしい。

そして私は少年にそっとこの空間の事について語った。

「ここはね、空と空の間なんだ。朝には朝陽が燦々と登って昼には綺麗な青空になり、夕方には夕陽で赤く染まる。夜になればお星様がキラキラと輝いてとても綺麗なんだよ。」

「でも、お姉ちゃんしかいないんでしょ?」

「うん。でもね、今は寂しくは無いよ。君がここにいるから。」

「そっか。」

少年はなかば諦めたような風ではあった。
この状況を受け入れざると得ないと思ったのだろう。

もう独りじゃない、か。

独りだった頃はただただ空の様子だけを毎日観察していた。
毎日同じような空、だけど毎日同じでは無い。
時には嵐が吹き荒ぶ時もあり時には雪雲が深々と流れる時もあった。
同じようで同じでは無い毎日の空。

たまには空を見る事はいいのかもしれない。
そう私は思う事にした。

「空と空の狭間で」

6/14/2024, 11:19:48 AM