『夜の海』
夏休み祖父母の田舎に、れいんは、勉強の息抜きに一人で来た。
何もない、無人駅で降りた。
スマホのマップを見ながら、歩き出す。
街灯がポツリポツリと、あるだけだった。
ーー夜が夜の貌をしていた。
畑の中を電車が通っていた。久しぶりだけど、田舎は、ジブリの世界だな〜と思った。
やがて、海が見えてきた水平線の向こうに半月が出ていた。
『れいん君。』
と、僕の名前を呼ばれた。
暗闇の海の近くにいるはずのない、クラスメイトの桜かすみがいた。
僕は、海へと降りる階段を降りた。
『桜かすみさん?』
と、尻上がりの呼び方をした。多分、僕の顔も眉をひそめていただろう。
桜かすみは、白いワンピースを着ていた。髪の毛は、ロングヘアーだった。
『れいん君、勉強を頑張っていますか?』
と、桜かすみは、訊いてきた。
『まぁ、イチオな』と、僕は応えた。
『そっか……。』
と桜かすみは、寂しそうに笑った。
『私ね、れいん君みたいに勉強が出来る人って憧れなの。』
『……』
『れいん君みたいに、夢があったり、何時もトップを見ている人はどんな風景を見ているのかな〜?』って、何時も考えていたの』
『うん』と、僕は、短く返事をした。
『そしたら、何時も。れいん君のことばかりでいっぱいになったの。』
と、桜かすみは、大きな瞳を潤ませた。
『れいん君に、ちゃんと私の気持ちを曖昧に伝えたままだったから、云いたかったの。ごめんね。』
『桜かすみさん、僕は夏休みだからちょっとだけ時間があるよ』と、僕は笑ってみせた。
『ーー暫くだけではいいから、一緒にあの月をみたいな〜』
『いいよ』と、僕は、言った。
『黙っていてもいいよ』と、力なく桜かすみは、言った。
僕は、理解ったと、応えた。
夜の海が僕をやさしくさせた。
桜かすみは、もういない人だから……。
せめてもの、僕なりのありがとうのつもりだった。気付きけてごめんな。終り
8/15/2023, 12:10:05 PM