蔦木

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まだ学生だった頃
通学中にいつも聴いていた曲がある
ワンフレーズ耳にしただけで
歌詞の全てを誦じられるほど
ずっと聴いていた曲がある

自分のことを謳われているような
自分のための歌のような気がして

若さ特有の斜に構えた生意気さと
憐憫の自己陶酔

その世界観につま先からつむじまで
しっかり浸っていたあの頃
両耳にさしたイヤホンから
流れるあの曲が私を形成しているのだと信じていた


昨日久しぶりにその曲を耳にした時
随分と俯瞰的に
もう私のための歌ではないなと感じた
嫌いになったのではない
ただ、昔ほど共感もしないし陶酔も出来なかった

学生だった私が
夏の陽射しの中で風をきって自転車を漕いでゆく
私はその姿をずっと見つめていた
昔より少し不明瞭になった歌詞をききながら

曲が終わる頃
あの頃の「私」はすっかり姿が見えなくなった
もうきっと会うことはない
もう私の中にあの曲は残っていない




お題:喪失感

9/10/2022, 11:45:46 AM