みこと

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『死にたい…』
屋上前の階段、殴られた跡でいっぱいのまま、声にならない声を上げた。涙は今更出てこないし、どこにも救いがないことも分かっていた。それでも仕方ないと分かっていた。
『生きる意味なんてないだろ』
カバンからカッターを取り出す。チキチキと、刃を出してみる。屋上の窓から差し込むオレンジが、やけに刃を照らし出して見せた。迷うことなく俺は、カッターを振り上げ、手首に刺す。痛い、赤が溢れて、意識が遠のいていった。

目が覚めると、白い天井が見えた。
「痛ぇ…どこ…」
「あなた、起きたのね。大丈夫?傷だらけだったけど」
「えっと…だれですか?」
見たこともないほど、美しい人だった。長いまつ毛に縁取られた金の瞳。真っ直ぐなえんじの髪。形のいい唇。全てが整っていた。そして、どこかで見た顔だった。
「私はアズカ。アズカ・リリノア。」
一目惚れのようだった。胸が高鳴り、目が離せなくなる。
「僕は、えっと…」
自分も名乗ろうとするが、思い出せない。全て、忘れてしまったようだ。すると彼女が口を開く。
「大丈夫?」
大丈夫ではない。分からなかった。だけど、口は勝手に動く。
「君はとっても綺麗だ。」
あぁ、完全にヤバいやつだ…終わった…
「えっと、ありがと。」
「すみません。変なこと言って。ここってどこですか?」
「ここ?野戦病院。君は戦場の端で倒れてたから、連れてきた。」
「そう、ですか。」
次の瞬間、すごい轟音がなる。
「なに?」
彼女が振り返ると、大量の人が入ってくる。完全に僕らは囲まれた。
「私が敵を引きつけるから、その間に逃げて」
小さな声で僕に言う。でも、見捨てられるはずはなかった。
銃声がなる。彼女を狙っている。反射的に体が動く。胸が熱くなる。赤が、流れた。死にたくない。そう思って、彼女をみると、彼女が戦っているのが見えた。
遠のく意識の中、彼女が勝ちを掴み取るのが見えた。
「君!大丈夫?!」
声も出ない。瞬きで返事をして見せる。
「ごめんね、ごめん…私のせいで…」
「僕、帰る場所なんて、ない、から。君が、死ななくて、よかった。」
消えゆく意識の中、初めて会うはずの彼女、正体が分かった。
「君は…」
ハルカ、会えて良かったよ。
君の平和はまだ、ないけど、愛してるよ

3/10/2024, 11:14:11 PM