金木犀

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 月夜

 月が綺麗な夜だった。
「夏目漱石はなんであんな遠回しな告白を考えたんだろう。」と君。
「それが当時の浪漫だったんじゃないかな。」と僕。
 君を家に送る、散歩という言い訳の遠回り。お互い、まだ家には帰りたくなかった。悪あがきというか最後の抵抗というか、ある意味、遠回しな告白だったかもしれない。
「相手が鈍感な子じゃなくてよかったね。」
「その時は、ストレートに伝えてたんじゃないかな。」
「そっか。」
 それからしばらく沈黙が流れた。街灯の乏しい住宅街を、ただ赴くままに歩いた。そうして少しずつ、君の家へと近づいていく。暗く静かな街。足音だけがやけに大きく聞こえた。
「私は。」と、ふと君が立ち止まる。
「私はきっと鈍感だし、他の人より足りてない部分も多いし、焦ってるわけじゃないけど、待ったり我慢したりするのはあまり得意じゃない。」
 雲の隙間から差した月明かりが、君だけを照らしていた。

「僕は……。」



——月が綺麗な夜だった。

3/7/2024, 4:42:47 PM