星野 エナガ

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今、目の前には心臓がある。
それは自分の内蔵だと私は気づいた。なぜなら鼓動が感じれないからだ。私はそれをよぼよぼな手で手に取る。トクトクっと鼓動を手のひらで感じる。しかし、不思議なものだ。今、私は生きている。私の体は心臓という命あるものには必要不可欠なものが無い体になっているというのに。夢なのだろうか?たが、私は頬をつねらない。夢でも現実でもいいからだ。ふと、私は不気味な事を考える。もし、この心臓を握り潰したらどうなるのか?投げつけたら?踏み潰したら?私は私が嫌になった。気分が悪い。だが、いま心臓が無い体をある体にするにはどうすればいいのだろうか?
私はシャツのボタンを取る。そして鏡を見る。私の体にはきれいな穴がある。筋肉が落ちているよぼよぼな体には似合わない。
そして今更なことを思い出した。指輪がないのだ。いつも身につけている愛しき妻の形見がないのだ。だが、すぐに見つかった。心臓があった場所だ。
そして思い出した。私は心臓の病に患っていたこと、そして心臓にはその病の証がついていることを思い出した。
たが、この心臓にはそれがない。
私は思う。この心臓は私のではなく、妻のものではないか?と、そして妻は病を患った私の心臓のかわりに彼女の心臓を置いていったのではないか?と…
どうやら、私は妻によって生かされているのだ。妻の心臓を体に入れるわけがない。なぜならこの心臓は彼女のものだ。いずれ返さなくては。

『My heart』より

3/27/2023, 12:59:48 PM