「今日の課題は目の前のコインを裏返すことだ。
ただし、杖は使ってはいけない。
もちろん、コインに直接触れてもいけない。
さあ、やってみなさい。」
「……杖なしでなんてできるわけないじゃんね。」
ミアはイゾルトの方を見てぼやくように言った。
「前の授業聞いてなかったの?とにかく集中することだよ。物質を構成するプリマ・マテリアを見通して、マナの流れに干渉するの。『杖を使っている時もやっていることは同じだ。杖なしでできないわけはない。』ってね。」
イゾルトは少し呆れた様子で言った。
「イゾルトは教授の声真似は上手いけどさ、それってちゃんと理解して言ってるの?」
ミアの言葉には答えず、イゾルトは手をかざしてコインを裏返そうと躍起になっていた。
しかし、コインはカタカタと震えるだけで裏返る様子はまったくない。
「なんだ、偉そうなこと言っても結局裏返せないんじゃん。」
「……ミアは1ミリも動かせてないくせに威張らないで。」
「だってこんなの、いきなりやれってほうが無理じゃん。」
「そこまで!」
教授は手に持った杖を高く振り上げて言った。
「とても残念だ。今回できたのは二人だけだった。私の授業を聞いている者であれば、当然に全員できると思っておったが。」
教室の黒板の前にはサーシャとオーギュが立たされていた。
「できなかった者は次の授業までに練習してきなさい。
ゴブストーンやチェスなんかで遊んでいないで、もっと自然の中に行きなさい。
そよ風を浴びて、湧き水の音を聴いて、大地の温もりを感じなさい。
そうすることもせずに、マナを感じ、捉え、操ることなどできはしない。いいね?
……では本日はここまで。」
教授はそう言うと分厚く重そうな本をするりとマントの中にしまい込んで颯爽と教室を去っていった。
(フリートフェザーストーリー いつかのできごと篇 #2 : お題「裏返し」)
8/22/2024, 6:40:16 PM