狼星

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テーマ:海へ #283

「海へ行こう」
急に言われて今に至る。
夕焼けが沈んで海の中に溶けていく。
何だか寂しい気持ちになる。
「ここに来ると自分がちっぽけに見えるんだ」
俺は横にいる友人に目を向ける。
彼は流木に腰掛け海を見ていた。
「上手く行かなかった時、叱られた時、
 悔しい時……。いろんな時に来るんだけど、
 いつもここに来ると思う」
俺も彼と同じように流木に腰掛ける。
ザッパーンと波打つ音が遠くから聞こえる。
「海も太陽も、ここには大きいものばっかりだ。
 俺の悩みなんてなんてちっぽけなんだろうって。
 そう思わないか?」
俺はもう一度海を見つめる友人を見た。
そして、フッと笑う。
「な、なんだよ」
「フン。お前に慰められるくらい、
 俺はしょげて見えるかよ。そう思ってな」
そんな俺に友人はいった。
「ハハ。心配されるくらい抱えないでくれ」
俺は視線を海に戻す。
もう半分以上太陽を呑み込んでいる海を。
「ありがとな」
友人に聞こえるか聞こえないかくらいの声で言う。
フンと鼻を鳴らすのが隣で聞こえた。

8/23/2023, 11:24:59 AM