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◯幸せに
 幸せになりたい。
「え?」
 咄嗟に聞き返す。
「だーかーら、幸せになりたいの。」
「どしたん?急に。」
 変なの、と笑えばムッとする貴方が面白くて。だから、ちょっと揶揄うつもりだった。
「ま、あんたモテないもんね。良い人いないの〜?」
 なんとなくタカを括ってたんだと思う。なんとなくずっと一緒だと思ってた。いるはずないって思ってたのかな。何それだなんてとぼけながら。
 だから頬を赤く染めた貴方に、私は心底戸惑った。
 きっと心の内では私の「幸せ」はとっくに決まってて。なんでわざわざ明確にしちゃったんだろう。どうして同じ答えを求めちゃったんだろう。なんでよりにもよってあのとき自覚しちゃったんだろう。「あー、私じゃないんだ」って確かな落胆と痛みに、戸惑った。
「は、いんの、?」って背を叩いてはしゃいで、知りもしないヤツに嫉妬した。ほんとは笑えなかった。
 帰り道、日が落ちてオレンジ色に染まるアスファルトへ視線を落とす。きっと私へと誰かへ向ける感情は違うものだった。分かってる。でも幸せになりたいなんて。
 私は幸せだったのに。

3/31/2026, 6:11:42 PM