「お弁当」
朝5時はいまだに真っ暗だった。
台所の照明に目を慣らしながら、足元の棚からフライパンと鍋を取り出す。
お弁当作りを任されたのは今回が初めてだ。改めて何を作るべきか、とソワソワしてしまう。
とりあえず、冷蔵庫から卵を取り出す。
水を半分まで張った鍋に4個の卵をそっと入れ、ガスをつけた。
卵サンドイッチにしたいのだけれど、ゆで卵の加減はどれくらいが適度なんだろう。個人的には半熟が好きだけれど、黄身がしっかり固まっている方がコクがでるのかしら。
と、去年捨てずに取っておいた6年家庭科の教科書を引っ張り出して見てみる。どうやら、沸騰から何分か放っておけば良さそうだった。
鍋にタイマーをかけている間に、前菜の用意をする。
アスパラはまだ旬ではないから、肉巻きにはカブを縦切りにしたものを代わりに使おう。そうだ、ブロッコリーもお弁当に欲しい。ブロッコリーの肉巻きなんてのも素敵かも。
空がまったく明るくなる頃には、お弁当はすっかり出来上がっていた。バスケットに一つ一つサンドイッチを詰めて、タッパーにたっぷりと肉巻きを並べる。卵サンドイッチに使われなかった完熟たまごも半分に切って入れてみる。
完成だ。忘れないうちにリュックへ詰めておこう。
「お、これ全部スズナが作ったのか。大したもんだなあ。」
「ぼくこのベーコンぐるぐるしたやつ大好き」
「お母さん、ちょっと心配していたけれど、こんなに美味しい卵サンドを作れるなんて驚いたわ」
ちょっと早めの昼下がり、桜が満開の木の下で、菜の花の香りがただよう春爛漫の野に囲まれて、家族がお弁当を美味しそうに頬張る。
私は嬉しさに満面の笑顔で、くしゃみをした。
3/27/2025, 9:20:15 PM