夜中と早朝の狭間に
君の声が聴こえてからだ
ずっと同じ時間帯に
私は外へ出て君を探す事が日課になった
「寒い」と震えながら探す
最初は大きいカリカリの袋を買った
当たり前に「カリッ」と音を立てながら
沢山食べた
次はコンビニの帰りには缶詰めを買った
当たり前に嬉しそうに盗られまいと
「シャーッ!」と威嚇しながら
ペロリと一缶食べた
ふと、君の体付きをマジマジと見る
「妊婦さんだ…。」
猫の出産に何度も立ち会った事がある私は
すぐ分かった
栄養を摂って欲しいと思った
生命は生命
人間か猫かの違いだけで
尊い生命には変わりなんて無い
「飼ってあげられなくてごめんね」とバイバイする
毎日、深夜と早朝の狭間に
君の元へ通う
時には君を探す
時には君が私を見つけて
嬉しそうに「餌!」と、寄ってくる
警戒しながらも
欲しい物は頂くその野生の心と
決して触らせてくれない
そのぺったりとした毛並み
見透かす様なまん丸い目に、見事に掴まれた
いや、自ら掴まりに行ったのか
毎日君が餌を食べてる時
決まった距離感で
私は君に話しかけた
「待たせてごめんね!」から始まって
日常の事
仕事の事
お母さんだ、という事
「ママ友だね。笑」
涙を流しても
笑っても
君は私をじっと見るか
餌に夢中だった
君に会いに来る人間は私だけではなかった
早朝におばあちゃんが君に会いに来ていた
夜には違うおばさんが君に会いに来ていた
「愛されてるんだなぁ」と安心した
「モテモテですねー。笑」と笑って話しても
知らん顔で凛と餌を食べる君に憧れた
何ヶ月経った頃だろうか
いつしか、いつしかさ、
君の方から私を探してくれる様になったんだ
君は私の事を捉えるのが上手で困ったや
君のテリトリーの近くを自転車で通れば
「にゃー!」と何度か出てきて呼び止められた
いつ私の家を覚えたのか
マンションの外の非常階段の下で
待っててくれた時もあった
いつもの様に自転車で呼び止められた時
いつもの様に私は少しブレーキをかけつつ
「ちょっと待っててね!」と君に言ったのに
駐輪場まで走って
付いてきてくれた日もあった
3LDKのマンションに
1人で住む私の空白を
君が沢山埋めてくれた
それから、彼女はお子さんを二人紹介してくれた
お子さんの分の餌も用意した
そのお子さんが大きくなって…
子どもをまた私に紹介してくれた
もう恒例の儀式となっていた
「もうこれはチュールかな。笑」
と、大袋をスーパーで選びながら
嬉しかった
家族が増えた気がして
1人では無い気がして
あれから5年弱
彼女の子どもも孫もひ孫も夜叉孫も…
いつもの距離感で相変わらず私から会いに行く
猫を飼っても良いと
許可は大家さんから出たけれど
なかなか掴まってくれない
自由気ままな柄違いの君達の胴を
何とか掴もうとするが引っ掻かれる
「ですよねー。苦笑」
野良猫は野良猫の生活やルールが
あるんだろうなと思った
私がこの子達の自由を奪うのは違うんじゃないか。
とも思った
同時に前から自分のこの行為が無責任な事も
私はよく知っていた
それでも
生き延びる術だけは毎日言い聞かせた
「車に気を付けなよ!」
「変な人間が来たら逃げるんだよ」
分かってるのか分かってないのか…
毎日無事を見て安堵する
そして笑う
そんな日々があの日から続いている
カメラロールには彼女の写真から始まって
沢山の子達の写真だらけになった
彼女は姿を消しちゃったけど
彼女の血はまだ続いてるから
寂しくないよ。
でも、でもね、
またママ友話がしたくて
私が鳴く様になった。
題 君に会いたくて
著 塵芥椎名
1/20/2024, 12:40:34 AM