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日記を書くとはとてもつまらないことだと思っていた。その日に起きた出来事を書くのなら日誌で事足りる。わざわざ自分の心というものを言語化して残すことになんの意味があるのかボルサリーノには理解できなかった。
ある日黒い手帖を見つけた。誰のものかと開いてみればそれは日記だった。人の日記を見るというのは良くない事とわかってはいるが持ち主の不注意で落ちていたものだ。落とした方が悪いと開き直り中身を読み始める。そこには遠征先で見た景色や街の人間の活気、部下と食べた食堂での話、上司との世間話。その上司には自分も含まれていたようで、自分が喜びそうな茶菓子や新しい紅茶の話まで書かれていた。自分の登場が多い事とお互いしか知らない新しいフレーバーの紅茶の話を見つけ、この日記が誰のものか理解してしまった。
「ボルサリーノさん、黒い手帖を見ませんでしたか?」
「それって、こいつかァい?」
「!!見つけてくださっていたのですね、ありがとうございます」
「その、悪いんだけど、中身見ちゃった。ごめんよォ」
ストロベリーは少し目を見開いたあと、少し笑っている。

8/4/2023, 5:13:55 PM