宙ノ海月

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「通り雨」


遅くなってしまった...早く帰らないと。

そう思いながら走って靴箱へ向かうと見えたのは曇天の空。

ザァアアア

そう音が聞こえるのは気のせいではないみたいだ。

今日雨が降る予報なんてなかったのに。

置き傘は...生憎家に置いてきてしまっている。

どうしようか。

走る?でも濡れたまま電車には乗りたくない。

スマホによると、この雨はそう長くは続かないらしい。

なら、待つか。



...待っている時間暇だなぁ。

はぁ...とため息をついていると

「あれ、何してるの?...雨降ってる?」

大きく肩を揺らし、勢いよく振り返ると、
少し後ろに茶色の髪をくるくると巻いて首を傾げている女の子がいた。

彼女は...校内で不良と有名だったような...

少し戸惑いながら頷くと「そっかぁ...」と言ってカバンを漁り出す。

「傘あったかな...お、あった!」

...あまり不良のようには見えない。

無意識に見つめすぎてしまっていたらしい。

こちらに顔を向けた彼女と目が合った。

「あ、傘ないの?」

頷くと彼女は少し間を開けて言った。

「じゃあ...途中まで一緒に帰ろうか?」

遠慮しようか、どうしようか。

屈託ない笑顔を浮かべいたずらっ子のように笑う彼女はとても可愛かった。

もう少し彼女と話してみたい。

そう思った時には既に、小さく頷いていた。

「ふふ、じゃあ帰ろうか。」

小さな傘に身を寄せあいながら下校する。

「あ、ねぇ、名前なんて言うの?」

「趣味はなにかある?私はね〜」

「そうそう!そうなんだよ〜!わかってくれる〜?!」

「あ、あれね!いいよね〜!!」

私が予想していたものに相反して、彼女はとても話しやすかった。

噂を信じていたのがバカみたいだ。

ふふ、と小さく笑いを零す。

「え、なになに〜?どうしたの?」

「なんだか、楽しいな、って。」

「あ、たしかに!なんか楽しい!」

ふふ、んふふ、
はは、あはははは!

2人で顔を見合せて笑う。

今日初めて知り合ったのに。こんなに会話が弾むと思わなかった。


「...ねえ、友達になりませんか?」

「...いいよ。」


2人で手を繋いで歩く。

いつの間にか雨は止んでいた。

空にかかる虹の間。傘とふたりの影が咲く。

9/27/2023, 11:42:10 AM