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鐘の音
 
チャリン、チャリン、ポケットの中で小銭が擦れ合い音を出す。

ぼくは今、除夜の鐘の音を聞きながら夜道を散歩している。家族という喧騒から逃れたのは23時を過ぎた頃だった。

除夜の鐘が108回鳴らすのは、一つ鐘の音がなるたびに煩悩が一つ消えるという願いからだそうだ。ぼくはふと思う、煩悩は大きなものでも、小さなものでも鐘の音一つで消えるのだろうか?

ぼくの煩悩はポケットの中の小銭と同じで細かな小さなものばかりだと思っている。

大晦日といのに、我が家は父の怒鳴り声が絶えない。父が言うには、ぼくは欲がなさすぎるから駄目なのだそうだ。そのくせ、ぼくの願いである、好きな人と仲良く幸せに暮らしたいという願いを言うと、それが一番難しいと言う。

父は矛盾している。父の理論だとぼくは欲がなさすぎるくせに、一番難しいものを願う欲深い人になる。

ポケットの中の小銭と同じで、ぼくの願いは細やかなものなのに、煩悩に満ちているというのか?

除夜の鐘のボーン、ボーンという鐘の音を聞きながら、夜道を一人歩いた。ポケットの小銭を握りしめ、ひたすら、チャリン、チャリンとならしながら。

8/5/2024, 10:42:21 PM