【若干ホラー】
母方の実家に預けられていた頃の記憶である。
祖母は優しくて滅多なことで怒るような人ではなかった。
反対に祖父はそれはもう厳しくて幼少期は矢鱈近づくことはない。
そのため朧げな記憶のほとんどは祖母である。
優しいおばあちゃん。
「◯◯ちゃん、奥の……、だけは……。おばあちゃんと約束よ」
高齢により他界したおばあちゃん。
なんだか、大切な事を言われていた筈が思い出せない。
どうして忘れてしまったのだろう。
遺品整理のため一足先に到着した民家。両親が来るのは明日。
古めかしい家。それでもいざ入ればその頃の記憶を思い起こす。
少しだけ、目の奥がじわりとぼやける。
一人でできることなどたかが知れている。とりあえず換気のため編戸を開けていく。
祖母は一人で長く守っていたのだ。必要以上に手入れは出来ていまい。少し手こずりながら全ての編戸を開けることが出来た。
風が吹くたびに澱んだ空気が押し流されるような気がして気持ちがいい。
「◯◯ちゃん……◯、◯ちゃん」
風に混じり、声が聞こえた。
優しいおばあちゃんによく似た声。
奥の部屋から聞こえた。閂錠で施錠されただけの部屋。唯一鍵らしきものがされた部屋。
「おばあ……ちゃん?」
「あけて、ちょうだいぃ、◯◯ちゃ……」
あるわけない。
そう否定しながら、最後に、などと希望を抱いてしまった。
きしりと軋む廊下。
「おばあちゃん、いるの……」
そう呼びかける。
「あけてちょうだぃ、ね、◯◯ちゃん」
やっぱりおばあちゃんの声だ。もう迷いもなく閂に手をかけていた。
「◯◯ちゃん!!開けちゃいけません!!」
滅多に怒ることのない祖母の声が後ろから聞こえ振り向いた。だが後ろには誰もいない。
9/22/2023, 12:22:56 PM