「ねえ、そういえば! 私の下の名前、知ってる?」
僕は、プリント等で見た彼女の名前を思い出した。
「えっ……と、彩さん、だっけ」
「知っててくれたんだ! 嬉しい。でも下の名前にさん付けなんて、なんか変な感じ! 彩でいいよ」
「いや、それはさすがに……」
「それにね、聞いて! 大発見なの。彩っていう漢字ね」
彼女は、自分が見つけた宝物を人に見せる幼い子供のように、目をきらきらとさせた。その表情は、本当に輝いて見えた。
「音読みするとね、サイになるの。サイだよ、佐井くんの名字とお揃いなの」
ただ、そんなこと。それだけのことを、こんなにも嬉しそうに話してくれる。その笑顔はあまりにあたたかくて、まるで陽だまりの中にいるようだった。
自作小説『感情喰い』より
7/20/2023, 11:40:07 AM