狼星

Open App

テーマ:1年間を振り返る #48

※この物語は#20からの続編です

「ラック…。何しに来たんだよ」
ぶっきらぼうに言ったのは罪人のように後ろで手を縛られているセピアだった。
「そのような口をきくとは!! すみません…。親としてこの僕が腹を切ります!!」
青い顔をしていったのはこの王宮の執事の一人、セピアの父親だ。
「やめてください! そんなことしなくていいです!」
僕は慌ててセピアの父親を止める。本気でしそうな勢いがあったからだ。セピアは父親にも隠して裏社会で動いていたらしい。よっぽど、こっそり動くことと人を騙すことが上手いらしい。
「セピア」
僕は彼の名前を呼ぶと縛られている彼を抱きしめた。
「は…。なにしてんの」
セピアは抵抗しようとしているが自由は縄によって縛られている。
「ごめんな。気づいてあげられなくて」
僕は言った。するとセピアの抵抗が弱まる。
「セピアが苦しんでいたのに気がついてあげられなかった。親友失格だな」
「何言ってー」
「セピアが自分を追い込んだ上で出した結果がこういうことを起こしてしまったんだ。それに、辛いとき一緒に聞いてあげられなかったから、裏社会へ手を伸ばしてしまった。誘惑から逃げられなかった。
自分が辛いから、魔法使いを嫌うようになって、魔法使いよりも自分のほうが優遇される人物になりたかったのだろう?」
僕がセピアを抱きしめたまま言った。セピアは何も言わなかった。
「お前は何も悪くない。全部、俺が選択した結果だ」
「違うよ」
セピアの言葉に即否定すると続ける。
「僕はこの王国の後継者のはずなのに、この国のことを何も知らなかった。後継者のはずなのに、どんな人が今、どんな目にあっているのか知らなかった。
それに、何よりもすぐそばにいた親友の悩み1つも解決できない僕だ。よっぽどセピアのほうが知識はあるし、後継者にはふさわしいんじゃないかって僕は思っていた」
セピアの体は震えていた。小さく嗚咽も聞こえ、僕の首のあたりに水っぽい感覚があった。
「ごめん…ごめん……」
セピアはかすれた声で言った。
「お前は、何も、悪くないのに。親友、失格は、俺の方、なのに…」
途切れ途切れで言うセピアの背中を優しく叩く。
「俺の、ほうが、馬鹿だ……」
これは親友としての僕たちの関係内のやり取り。セピアがやった罪は大きい。世間からの目は信頼から批判に変わるだろう。
しかし、僕だけは。1人の親友として彼を思っていたい。

セピアは、王宮からいなくなった。もちろん、セピアの父親も連帯責任としてこの職を退任した。セピアの父親は最後涙を流していた。
「ありがとうございました」
そう言って、お辞儀をしてその場をあとにした。
世間は『早期の新国王、任命』がなくなったのと同時にセピアの話題が広まった。もちろん悪い方で。
魔法使いたちの開放と安全の確保。また、裏社会の管理人たちは全てとはいかないが捕らえられた。
僕はこの1年間を振り返り、それらを父上、母上に話した。ミデルは空き部屋に住んでもらっていた。ミデルは敵が多いためここにいたほうが安全と判断したためだ。
最初は、怒っていた母上も僕の話を聞いていくたび、機嫌は良くなっていった。僕は、最後に言った。
「父上と母上が闇と光でお互い支え合う国を作ったように。僕は魔法使いも普通の人間も互いに助け合える国を作っていきたい」
と。

12/30/2022, 1:41:13 PM