NoName,

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恩師が亡くなったとの知らせに、私と一緒に暮らす男はスマホを落とした。
高校の時、自分を見放した実の父親よりも、最後まで見捨てずに親身になって導いてくれた人で、「お前にも会わせたいんだ」と言うので、私も一度会ったことがある。おりにつけ、その人のことを聞いていたから、お目にかかった時、初めましてと言い忘れるところだった。

「こいつと一緒になろうと思っていて」と男の気持ちを初めて聞いたのもその時で、その人が「この子は馬鹿だけど本当にいいやつなんです。よろしく頼みます。」と私に深く頭を下げたものだから、私も慌てて深いお辞儀をした。

男にとって大切な人の思いがけない訃報に、男は私をソファに押し倒すと、私の胸にすがりながら声をあげて泣き出した。

しばらく男の背中をさすりながら「お葬式にはうかがうでしょ?」ときくと、子供のように更に激しく泣きじゃくりながら、男は「ムリムリムリ!」と言った。

「いつまでも子供のままで、心配かけたままでいいの?少なくとも、今までありがとうございましたとお礼を言いにいく義務があなたにはあると思う」と私がきっぱりと言うと、男は私の胸に顔を埋めたまま「うん」と小さくうなずいた。




お題「子供のままで」

5/13/2024, 3:52:10 AM