⚠️既存キャラクター⚠️
参考:O del mio amato ben _ ドナウディ
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あと何度君に会えるだろうか。
欠けの一つもない、綺麗に磨かれた月が天高く昇る頃。
彼女の部屋のベランダに面した城壁に背を預け、月を眺めながら漠然とそんなことを思う。
ベランダの内側で同じように月を眺めているだろう君は、今日の公演で僕が歌ったアリアを口ずさんでいた。
美しい姫君と貧しい少年の、離別と悲恋のオペラ。
僕はその歌に、僕らの姿を重ねる。
君に会えるのは劇場近くのベンチで、公演の感想を聞かせてくれる時だけだ。
君の上気した頬と、太陽に照らされた美しい横顔を思い出す。
それならば、豪華な装飾が施された椅子に座り歌う、月に照らされた横顔はどれほど美しいのだろう。
きっと、僕のもつ言葉の全てを注いでも十分の一も言い表せないに違いない。
触れられない距離を埋めるように、君が口ずさむメロディにそっと副旋律を重ねた。
それだけでよかった。
着るものも、食べるものも、住む場所も違う僕らにとっては、それだけでもう、十分に幸せだったのだ。
夢を見た。
僕がまだ×××××だった頃の、ありきたりで幸せな夢。
この夢を見た夜だけ、僕は自分が×××××であったことを思い出す。
引きちぎられて曖昧になった心の輪郭を照らしてくれるのは、透き通るような彼女の歌声だけだった。
今日も屋根を飛び移り、人目を避けて彼女の元へ急ぐ。
そうしてかつての城壁から少し離れた木の影に身を潜め、そっとあのベランダの様子を窺う。
彼女は変わらずそこにいる。
晴れの日も、雨の日も、あの時と同じ時間に、同じ場所で、同じように空を見上げている。
その顔が愁いを帯びているように見えるのは、僕の抱く淡い期待のせいだろうか。
ふとただ一つ、いつもと違う彼女の様子に気がつく。
透明な雫が、彼女の白くまろい頬を伝う。
僕は湧き上がる強い衝動を必死に押し殺した。
今すぐ君を抱きしめたい。
その心を覆う暗雲を取り除いて、君の輝くような笑みを取り戻したい。
されど人生はなんと残酷なことか!
ああ、月を見つめるアメジストが涙に濡れても。
僕にはもう、拭うことすら許されない。
そうしているうちに彼女はゆっくりと立ちあがり、ベランダを後にする。
いつものように、一度だけ振り向いて。
それを静かに見送った後、僕もいつものようにあの下水道へと帰っていく。
あと何度君に会えるだろうか。
帰り道、月を眺めながら漠然とそう思う。
日ごとに削れる理性は弱く灯り、凶暴化した本能が全てを食い潰さんと僕の身体を蝕む。
毎夜祈る。
ニブルヘイムの、父なる神よ。
どうか我が願いを聞き届けてください。
もしも、いつか奇跡が起きてもう一度君の隣に立てたならば、きっとこの救いようのない悲劇も、ありきたりで最高なハッピーエンドを迎えるだろう。
奇跡など起こりはしないとわかっていても。
僕のよすがはもう、これしかないのだ。
それから、こうした意味のない祈りと、期待と、空想の最後には、決まっていつもこう思う。
月に照らされた君の横顔は、この世の何よりも美しい。
"君を照らす月"
11/16/2025, 3:39:57 PM