向かい合う彼の目が私を射抜く。それが恐ろしくて描きかけのキャンバスに視線を落とした。
「動かないで」
「ごめん」
苛ついた声に顔をあげると、彼の目が私を捕らえた。先程より目が鋭い。私に苛立っているのだろう。
あの視線から目を逸らしたくて仕方がない。だがそうすれば、彼は舌打ちしながら髪をぐしゃぐしゃと掻くだろう。先程言われたことすらもできない愚図な私を心底軽蔑していると、アピールするかのように。
だから私は目を逸らせない。時間は片付けを除いてあと半分も残っていた。逆に言えば、あと半分で解放される。課題さえこなしていれば、だが。
手汗に濡れる鉛筆を握り直し、真っ白のキャンバスに取り掛かる。向かい合わせの彼の輪郭だけを見て、最低限の動きで線を引いた。
教員が片付けの声をかける。その頃にはいつのまにか、薄っぺらい彼がキャンバスに拙く描かれていた。良い点数は望めないが、補習ということもないだろう。心の中でほっとため息を吐く。
「先生、この後時間ありますか?」
嫌な予感が過ぎる。成績優秀な彼が、まさか、そんなわけないだろうから、きっと気のせいだ。だが彼は残酷な事実を告げる。
「まだ描けてないんです」
8/25/2023, 11:56:34 AM