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蝉が五月蝿く鳴く季節が訪れた。


今年も変わらず日差しは暑くて、冷房の効いた部屋で食べるアイスは美味しくて、毎日の夏課外は面倒なのに
スマホの画面をつけても君からの通知は疎か、トークすらも表示できない。


じめじめした梅雨を越せば君を思い出すことも少なると思った私の希望に反して、こんな退屈な課外の時間にも考えるのは君のこと。

少しずつ、確実に記憶から思い出が薄れていくのが怖くて、必死にノートの端に君を書き留めてばかり。
授業の内容なんて碌に頭に入っていなかった。



――起立、気をつけ、礼。



当番の号令で課外が終わっても、教室から誰もいなくなっても、私は席から動けなかった。


ぐちゃぐちゃに書き留めた記憶の彼が、こんなにも私の心をかき乱す。
苦しくて、痛くて、どうしようもないのに、なにひとつ溢さずに覚えていたい。どんな小さな欠片も忘れたくない。



両思いだねって言うと、元からでしょって言うところ。

大雨の音が怖いって助けを求めたら、雨の日は連絡するよって言ってくれたところ。

忙しくて疲れているはずなのに、私に連絡してくれていたところ。

そのほうが嬉しいでしょ、なんて見透かして、女の子と関わらないようにしてくれたところ。

可愛い、好きだってたくさんたくさん言ってくれたところ。

あんなにもたくさん愛してくれていたのに、俺はもらってばっかりだって言っていたところ。




「……っ禪、」




寂しかった、苦しかった。

でもそれ以上に愛されて、幸せだったはずなのに。



――あんな少しの嘘、気づかないフリしておけばよかったんだ。

終わらないように友達のままでいればよかったんだ。




「――――嘘まで愛せなくてごめんね」




消してしまった写真を、今になって後悔する。

簡単に忘れられると思っていたから。こんなに引き摺ってしまうなんて、想像もしていなかったから。
もうすぐ一年が経とうとしているのに、自分でも呆れてしまうくらいに彼が好きだ。




「翠洙、ぶか――――……え?」




呼ばれた声に顔をあげると、目を見開いて固まる幼馴染。




「……あ、りく」

「おま、え、……だいじょうぶ、なの」

「大丈夫、それより部活だよね、行こう」




涙で濡れた目を擦って立ち上がる。

まだ心配そうに私を見る幼馴染に大丈夫だって、と笑った。

6/28/2023, 12:09:32 PM