私が高校に入学した年、お祝いにと祖父が金色のストップウォッチのようなものをくれた。
蓋を開けるとアナログの時計で、懐中時計というのだと祖父は言った。
「時計?いらないよ。スマホあるし、こんな安っぽい金色って、ちょっと。」と私がいうと祖父は、「そんなこと言わずに、その鎖も全部金無垢だ。困った時に売れば少しは足しになるはずだから。お守りだと思って持っていなさい。」と私の手に乗せた。
金無垢の意味がその時はわからなかったが、仕方なく受け取って自分の机の引き出しに無造作に突っ込んだ。
それから数年して祖父は病で亡くなり、結果的にあの懐中時計は形見になってしまった。そして私はなぜかそうしなければと思い、引き出しの奥から時計を探し出しお守りとして持ち歩くようになった。
大人になって「金無垢」の意味を知った。祖父がどういう気持ちでこれを譲ってくれたのかはわからない。でも懐中時計をみるたび、祖父が見守っていてくれると思うと、懸命に努力することができた。おかげで結局懐中時計を売ることも無かった。
私の性格から、こうなることを祖父は予想していたのだろうか?
そして今、私も孫を持つ身となった。
あの時の祖父と同じようにいずれ孫の中の1人に、この懐中時計を譲るつもりだ。
懐中時計と鎖の価値を当てにせず、自ら努力できる子に、「お守り」として。
お題「無垢」
6/1/2024, 5:53:54 AM