雪はいつも私のそばにいた。雪は私にとって越えるべき師匠であり、旧い親友であり、強い保護者であった。
雪に溶け込んで、獲物の目を欺いてくれる白い衣を身にまとい、私は雪の中で静かに待った。待つことは得意だ。特にこういった深雪の中で、隠れ潜む事に関して私の右に出る者はいないだろう。
私のように時折雪を口に含んで、口の温度を下げるなんて事、誰もしないだろうから。
しばらくそうして待っていると、地響きのような低い唸り声が遠くから聞こえてきた。獲物がやってきた合図だ。
私はじっと音の鳴る方向に睨みを効かせた。
そして見えた。地を這う怪物とそれを守る化け物たちが。
これが私が狩るべき獲物、討ち取るべき獣。
私は一体の化け物に狙いを定め――
ダァンッ!
――引き金を引いた。
弾は化け物の頭に当たった、彼はその場に倒れ周囲の雪を紅く染めた。
私はすぐにコッキングして次の獲物に狙いを定め、再びその頭を撃ち抜く。またコッキング、狙って、撃つ。そしてまた――
気がつけば化け物どもは全員雪を舐めていた。ただ赤黒く染まった雪が、彼らの死を私に伝えてくれた。
私は残った怪物の様子を確認した。
どうやら怪物は雪に足を取られ身動きが取れなくなっていたようだ。雪から出ようと必死に藻掻くが、彼らは知らないようだ、藻掻けば藻掻くほど雪に深く引き込まれていくと言うことに。
いや、知っていたとしても彼等にはこれしかできなかったのかもしれないが。
暫くして彼等は藻掻くのをやめた。
そんな怪物のハッチに私は狙いを定め再び待つ、私は待つのが得意なのだ。
そして、その時はすぐ訪れた。
怪物のハッチが開き中から化け物が出てきた、その手に何かを握っている、が、私は迷わず鉛玉を叩き込んだ。化け物はその一撃で息絶え、怪物の中に落ちていく。
その数秒後、怪物の首元から炎が漏れ出てきた、次の瞬間、怪物は爆ぜた。
私は反射的に顔を伏せ、飛んでくる破片から身を守る。
私はこの距離からでも炎の熱さを感じ、衝撃波が私のお腹を震わせた。
再び顔を上げると、怪物は辛うじて原形が分かる程に崩壊していて、その頭は完全に胴体から分離し近くの雪に刺さっているのが見えた。
どうやら私は今日、運が良かったようだ。
暫く周囲を警戒して、他に獲物がいないことを確認してから、私はその場を離れた。
私はシモ・ヘイヘ、白い死神。
私は今日も許可なく雪原を越えてやってきた獲物を狩り尽くした。明日も今日のように狩りに行くだろう。
そして、彼等が雪原を越えてこなくなるまで私は狩りを続けよう。
雪原の先で私は待つ。
12/8/2025, 5:05:04 PM