幼い頃、大好きだった母を亡くした。
その後父と2人で生活していたものの、母を亡くした反動で塞ぎ込むようになった私に最初はどうにか元気づけようとしてくれた父も、段々と声をかけなくなっていた。
終いには私が寝る時間を見計らって知らない女を家に連れ込んでいた。別の部屋にいても耳を塞いでも聞こえてくる交合の声。
1人になりたかった。
大好きな母は死んで、母が愛した人は別の女を毎晩連れてくる。
塞ぎ込むようになってから学校に行けていなかった私は人との関わり方なんて忘れていて、今通っている高校でも友達なんていなかった。
母の命日も忘れて遊び呆ける父に嫌気がさした私はある日父にメールを残し、行先も知らないバスに乗り込んだ。
『お父さん、今までありがとう。しばらく帰らないと思うけど、気にしないで。急にごめんなさい。』
外の景色をぼーっと眺めながらこれからどうしようかと考える。とりあえず、1人になりたい。そう思いながらバスに揺られているうちにいつの間にか眠っていたらしく、バスは終点に着いてしまった。
バスを降りて辺りを見回すとそこは全く知らない土地で住んでいたところより緑が多くて空気が美味しかった。
バス停の近くに公園があったため、ベンチに座って夜空を眺める。今夜は綺麗な満月だった。しばらく月に見とれていると、
「にゃーん」
猫の声が聞こえてきた。辺りを見回すと猫は私と同じように、ベンチに腰かけていた。
「あなた、どこから来たの?」
「にゃーん」
「家族はいるの?」
「にゃーん」
この子は人間の言葉が分かるのだろうか。私には猫の言葉なんてさっぱり分からない
「あなた、1人?」
「にゃぉーん」
猫の言葉なんて分からないけど、鳴きながらこちらをじっと見つめてくる猫はまるでそうだと肯定しているようだった。
「私もね、1人なんだ。一人ぼっち。」
「にゃーん」
「私たち、似てるね」
「にゃーん?」
やっぱり、人間の言葉は分からなさそうだった。何言っているのか分かってなさそうな返事が返ってきてそれがなんだか可笑しくて。
まだ少し肌寒い春の夜の月明かりの下。
猫と私。二人ぼっち。
━━━━━━━『二人ぼっち』
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3/21/2024, 1:56:45 PM