【終わらせないで】
終わりたくない。
心の底から、そう思った。生まれて初めて、自分のデザインした衣装を、華やかな舞台の上で、こんなにたくさんの人に見てもらえたんだ。
単なる高校の文化祭。それも、普通校の。
もちろん、「〜にしては上出来だ」などと言われるようなクオリティでは満足してない。ちゃんと、どこに出しても恥ずかしくないものたちばかりだ。
(どこに出しても恥ずかしくない、か)
レイは一人で笑みを漏らした。まるで自分の子どものようだ。
初めて、大勢の人の前で指揮をとった。そして、その大勢の人たちに感謝した。
「お、レイ。ショー、良かったぞ」
振り向くとそこには、父親がいた。何か違和感があると思ったら、デカいカメラも、臭いタバコも、何も手に持っていない。
「……。」
父親は無言でレイの前に立っていた。手持ち無沙汰なのか、右手がタバコを持つ形になったまま自分の脚を叩いてリズムを取っている。ーそれも、娘が今日刻んだリズムだ。
「これで、終わるなよ。いや、終わらせないでくれよ。」
そう言い残して、父親は去っていった。
(そうだ。終わりじゃない)
レイは秋晴れの空を見上げた。
(終わりにするものか)
11/28/2023, 3:32:27 PM