クレハ

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月末に今月のカレンダーを破くのはオレの仕事。
とは言っても、オレがタイミングよく家にいるときだけだけど。

「あれ?」
「どうした?」

二人暮らしのマンションだけれど、オレがいる時間はそんなに多くない。
一年の大半を海外で過ごしているから。
それでも二人暮らしを選んだのは、この人と生きていくっていう証明が欲しかったから。
おかえりとただいまが常に存在する安穏に息を吐きたいから。

「この日何かありましたっけ」

指差した先、並んだ数字の半ばに、一つくるりと赤いペンで丸が書かれている。
何かあったっけ。
首をひねって考えてみても、何も思い出せない。
この雑な丸は間違いなくオレが書いたものなんだけど、書いた理由がさっぱりで。

「誕生日だけど」
「えっ」

呆れたような声がキッチンから聞こえて、ぐりんと振り返るオレ。
あなたは食べ納めの冷やし中華を具材を作りながら笑っている。 

「たん、じょーび」
「そ。カレンダー買い替えた時、二人の誕生日に記しつけるって騒いだじゃん」

そういえばそんなこともあった気がする。
誕生日。
誕生日だ。
オレの大切な人の。
謎が解けた喜びと、過去を振り返ってみても何もしていないことの絶望感。
こんなふうに誰かに何かをしてあげたいと思ったことも、忘れていた事実に膝を折りたくなる気持ちも、全部この人が教えてくれた。閑話休題。

「その日海外だったしなー」

ケラケラと、何も気にしていないような笑い声。
けど知ってる。
オレの誕生日は、オレの大好きなものだらけの食事を作ってお祝いしてくれたこと。
オレはそれが嬉しくて、お礼がしたくて。

「来年」
「……え?」
「来年はお祝いさせてください、絶対」
「…………来年も、一緒にいてくれんの?」
「っ当たり前でしょ!」

びっくりしたような、呆然としたような、そんな顔。
聞こえてきた言葉に反射で返して、ぎゅっと手を掴んだ。
にぎにぎと、包み込んだ手のひらをなぞってもんで、指先にキスした。

「……なっ」
「来年も、この先も、カレンダー新しくしたら書くし、今度こそ忘れないから。オレができる精一杯でお祝いします」
「あ、そお」

真っ赤になった顔を逸らしたら、真っ赤になった耳が丸見えた。
耳に顔を寄せたらもっと赤く染まりそう。

「おまえはそんな気持ちなかったんだろうけど、ちゃんとプレゼントもらってるよ」
「んん?そー、なんですか?」
「そうなんだよ」

何かあげたっけ。
この日は確か海外で試合の最中。
いや、最終日の表彰式だったかな。

「…………あ」

その日オレは一位をとって優勝して。
この人はスポーツトレーナーとしてオレが所属してるチームに入っていて。
自分のことみたいに喜ぶ笑顔を、今更思い出した。

オレ、あなたを喜ばせられてました?


お題「カレンダー」

9/12/2023, 8:06:29 AM