お気に入り
今日、友達が家に遊びに来た。
ずっと遊んでたらいつの間にか遅い時間になって、僕のお母さんは「泊まっていきなさい」とその子に言った。
なんでも最近は近所に不審者が出るからだって。
不審者は男か女か分からない。若いか年寄りなのかも分からない。
ただ近所に住む野良猫とか、飼われている犬とか、学校の飼育小屋の兎とかニワトリとか、動物がいっぱい殺されてるから「不審者がいる」って言われてるらしい。
友達は最初、遠慮して帰ろうとした。「門限があるから」とか、「お母さんが心配する」とか。
けど、お母さんは「もう外は暗いから危ないでしょ」とその子のぶんの夜ご飯を準備しだした。
僕は嬉しくてたまらなかった。友達は少しソワソワしてるみたいだったけど。しばらくすると、友達はしぶしぶ僕のウチの電話から家に連絡をした。
僕がこんなにと嬉しいのは友達を家に泊めるのが初めてだからとかじゃない。実を言うと、最近僕はその子に少し避けられていた。
今日だって、意を決して家に遊びに来るようわざわざ僕から誘ってようやく約束をこぎつけたんだから。それはもうワクワクした。
お父さんは仕事で帰ってこないので、久しぶりにお母さんと二人きりじゃないテーブルでご飯を食べた。
そしてすぐに、さっきセーブしておいたゲームで一緒に遊んだ。
お風呂に入ってきちんと歯磨きを済ませた後は、僕達は早々に布団に寝かされた。お客さんのための布団を僕のベッドの横に敷いて、僕はいつも通り自分のベッドで寝たけど、なかなか寝付けなかった。
胸がドキドキして緊張していた。
友達も同じみたいで、なぜか僕に対して寝たふりをしてるみたいだった。時々友達が布団の中で少しだけ身動きするのがわかった。友達が息を殺しているのがわかる。
僕は友達が寝るのを待つことにした。
せっかくのチャンスだから、というか友達を怖がらせたくなかったのもある。
しばらくお互い寝たふりが続いたけど、ようやく20分くらいすると、友達の布団から寝息が聞こえ始めた。
僕は起こさないように、そっとベットから身体を起こした。
見下ろすと、寝息に合わせて友達の肩がゆっくり上下するのが見える。よかった、ちゃんと寝てくてたみたいだ。
忍び足でベットから抜け出すと、僕は勉強机に向かった。引き出しを開けて中にある物をとりだした。
それは、僕のお気に入りの黒くて大きい"ハサミ"だ。
「断ち切り鋏」というそれは、元々はお母さんが使ってたものをこっそりと持ち出したものだ。だってお母さんは「子供には危ない」と言ってなかなか僕には貸してくれなかったし、僕はお母さんと違ってこれで裁縫なやりたい訳では無かったから、借りるための丁度いい言い訳が思いつかなかったのだ。
開けた引き出しをそのままにして、布に包んだ断ち切り鋏を落とさないように慎重になりながら、僕はそろそろと友達の布団に接近した。
布団から出ている友達の首は暗い室内でも分かるくらい白かった。その首筋に大きなハサミをそっと当てる。緊張でハサミを持つ手が震えているのがわかった。
ジョキン
子供の手より大きな黒い持ち手と、先にいくにつれ尖った歯を持ったハサミ。
僕はそれを布に包んで元の引き出しにしまい。その隣に先程切った「髪の毛」を入れた。
布団に戻っても興奮は冷めなかった。
ドキドキとする自分の心臓と、ベットの隣の寝息が聞こえる。
一つ目標を達成した事で、満足感と同時にまた新しくやってみたい事が増えた。
僕はそれが、犬や猫を殺すのとは比にならないくらい、楽しい事だと確信していた。
確かもうそろそろ、缶の中身がいっぱいになる頃だ。
殺した動物の皮とか尻尾とかを入れた四角いクッキーの缶。裏の公園のすみに隠してたんだったっけ。
それを捨てて、新しい"お気に入り"のために色々と準備するべきかもしれない。
きっと楽しいから。
2/17/2023, 2:29:27 PM