『時間よ止まれ』
(いじめなどが題材として出てきます。微閲覧注意!)
劣化したフェンスの音が鳴る。
目を瞑り、耳を傾ける。
どこかのクラスの歌声が聞こえる。
いつも通りの日常の風景。
でもそこに、私はいない。
明日からはきっと、この光景も見れなくなることだろう。
深く息を吸い、上をむく。
見上げた空は雲一つない晴天だった。
きっかけは、特になかった。
仲良くしていた人達とだんだん亀裂が入り始め、雑用を押し付けられるくらいだったのがちょっとずつ悪化して。
1度反抗してから急激に悪化していったから言い返したりするのはやめた。
周りは見て見ぬふり。
いじめって本当に助けてくれる人がいないんだと、身をもって知った。
体のアザは増えていくばかりで、隠せなくなってからはずっと長袖を着ている。
今ではすっかり傷だらけになってしまった腕を見つめる。
こんなに、身も、心も傷ついているのに。
この世界は無情だ。
世界が滲む。
張り裂けそうなほどの心の痛みに、その場に蹲る。
そろそろ、旅立ってしまおうか。
その時、キィという高い音がした。
驚いて振り返ると、そこにはクラスメイトの...男子がいた。
「...こっち側に戻る気は?」
「ない。」
「...そっか。」
無言の時間が続く。
「...そろそろ、いきたいから。」
じゃあね、そう言おうとすると、
「あ、待って!」
「今までずっと、見て見ぬふりして、ごめん。
頑張ってたよね。色々と。
上手く、言えないけど。言い訳でしかない、かもだけど。
実、は。僕もね。死ぬために、ここに来たんだ。」
そういって、腕を見せてくれた。
「このアザはね。別にいじめじゃ、ないんだけど...
家庭の環境が、良くないんだよ。」
それに、疲れちゃってさ。もういいかなって思ってここに来たら君がいたって訳。
そこでさ、と言いながら、フェンスを軽々と越え、隣までやってくる。
𓐄𓐄𓐄𓐄𓐄僕たち、一緒に心中しようよ。
それに何となく面白そうだと思い同意して少し会話を交わした。
話の区切りがつき、下を見下ろす。
「...そろそろ、いこうか」
でも、それももう終わりなんだ。
刹那の夢のような、幸せな時間。
足を踏み出す。
最期くらい、幸せなまま、終わってもいいじゃないか。
「僕は、君が好きだったよ。」
...時間よ、止まれ。
9/19/2023, 12:58:40 PM