「紅茶の香り」
わたしには、大好きな古本屋がある。
少し小難しい哲学書や歴史書から、有名な文豪の作品などが置いてあり、アンティークな雰囲気のあるお洒落な古本屋だ。
店内にはいつも、クラシックの音楽が流れていて。
少し小さいお店の中に、沢山の本が置いてある。
今日もまた、足を運ぶ。
チリンチリン
木製の扉の鈴がなる。
「ごめんください」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、黒猫がこちらにすり寄ってきた。
その猫を撫でていると、目の前に人影が現れた。
「いらっしゃいませ。」
「店長さん!こんにちは!」
慌ててスカートを叩き立ち上がる。
茶色のカフェエプロンをした、白髪のオジサマがたっていた。
「少し久しぶりですね。」
「そうですね…来たかったのですが、大学のレポートが立て込んでいて…」
「そうだったのですか!もしよければ、ここで作業していただいてもいいですからね。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
一時の休息を思わせる優しいオジサマも、このお店が好きな理由の一つだ。
コト、といつもの紅茶を机に置く。
「では、私はこれで。ごゆっくりどうぞ。」
ふわり、と紅茶の匂いを漂わせ店長さんは裏に戻っていった。
ギシギシとなる椅子に腰かける。
ダージリンの匂いが、私を妄想の世界へと誘っていく。
今日は、どんな人生を生きようか。
本の背を撫で、1人紅茶を揺らしながら考える。
今日もまた、偽りの世界へ浸っていった。
10/28/2023, 5:59:56 AM