NoName

Open App

 カレンダーに大きく赤丸が付けてある日は、私にとって特別な夜になる。何故って婚約者と一緒に過ごす夜だからだ。
 でも今月の赤丸は三つだけ。先月は二つだけ、と、我ながら婚約者への薄情さに胸が痛い。
 休日を除いては仕事場で毎日会ってはいるのだが、やはり大好きなひとと一緒に過ごす夜というのは特別で格別だ。それがたとえ一晩中の天体観測だけで終わってしまうとしても、ただそばに寄り添って他愛もない話をするだけでも特別だと思えてしまう。ドキドキして、なのにホッとするような心温まる夜になる。
 私としてもそんな夜をもっと増やしたいのだけれど、自分の研究の合間を見てとなると中々難しい。

 私は、カレンダーの赤丸をなぞって溜息一つ。
 自分で選んでいるやり方とはいえ、さみしさや申し訳無さ、自分自身の切なさに両肩を抱いた。

 今月赤丸が付く日まであと二日。
 せめて、二人で過ごす夜は、私の手料理で始めたいものだが、大体は好意からの婚約者手製の蒸し料理で始まってしまうのも頂けない。
 けして私の料理が不味いというわけではない――――付き合ってた時は料理を振る舞っては喜ばれていたのだからそれは間違いないのだが、今は、君も疲れてるだろうから、と気を使われてしまうのだ。
 実際、疲れているときにこの気遣いは嬉しい。
「でも、今回こそは私が作るんだから!」
 幸い次の赤丸の日は休日。婚約者の好物料理の材料を買って、少し早めに彼の家に行こう。あれを作ろうこれも作ろうと考えていると、浮かなかった気分が晴れていくのを感じる。

 その日、出来れば夜は晴れないで欲しいと、思う。
 天体観測もそれはそれで良いものだが、やっぱり彼の瞳を独占してしまう星の運行に、嫉妬している自分もいる。

 それに、一緒に入るベッドの温かさやキスやハグが、特別な夜を、更に特別に押し上げてくれる。

 

1/21/2023, 2:17:22 PM