【ブランコ】
小学生達がわちゃわちゃとじゃれ合いながら帰宅するその様子を、黄昏た大人ぶった顔してぼうっと眺める。
もうすぐ17時になるらしい。
昼と夜の境目の時間。夕暮れ時の薄暗さに後ろ髪を引かれながら、名残惜しそうに太陽がキワのキワまでその存在を主張し山際を縁取っていた。
話は変わるが......“リミナルスペース”なる言葉をご存知だろうか?
元々は建築用語であるとの事だが、ここ数年で海外発のインターネットミームとして取り上げられ、最近日本でもSNSを通して有名になったワードである。一言に言えば『日常の中の非日常』『2つの相反する要素の両立する奇妙な空間』のことなんだそうな。
今自分がいるこの場所に、ふとそんな言葉を思い出した。
自分は今、夕暮れ時の、住宅街から程近い公園で、寂れたブランコにただ一人座って...、じっと何かを見る訳でも無く、この世界に悠然と流れている“時間”を見つめている。
先程道路を歩いていた小学生達も今はそれぞれの自宅へと帰り、あの小学生特有な賑やかさの残香を景色に纏わせ、より一層この辺りを寂しげにするスパイスと化していた。
音を立てて吹き荒んだ風に背中を押されるように、キィキィと悲しげに鳴くブランコを一、二回漕いで小さく動かす。前後に行ったり来たりするブランコは、まるで幼児退行を促す催眠道具のようだ。
漕いでいくうちに、普段は心の奥底に鍵をかけて保管している幼い頃の記憶を呼び覚まし、精神世界へと誘った。
(幼い頃仲の良かったあの子は今元気だろうか?)
(どうして今は繋がりがなくなってしまったんだっけか。)
(何か大きな喧嘩でもしたんだっけか、それとも...)
(......大人になるにつれ、自然と会わなくなったんだっけかな。)
思い出に沈んだ心が、夕刻を知らせるチャイムを合図に引き上げられ...再び辺りを見渡した。
すっかり太陽の光は消え失せており、夜の暗さが支配している。
住宅街は暗闇を照らしだすランタンのようで。
その光の一つ一つに暖かな思い出があり、一方でその暖かさの狭間に消えてしまった仄暗く悲しい記憶もある。
人は皆、“暖かな思い出”と“仄暗く悲しい記憶”の間をフラフラと行ったり来たりを繰り返しながら生きているのだろうか。
(...今度、もう一度だけあの子に連絡してみよう。)
(あの頃の“僕”に帰れたら...いいな。)
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2/1/2024, 1:57:49 PM