月夜
月夜から朝日へと切り替わる
早朝の肌を嬲る隙間風
心のあたたかさに気温が影響したかのように凍てつく朝
何処か遠くの鴉が鳴き始める
何処か遠くで生活音が鳴り響く
月夜の時の血が耳に付着している
ニードルで刺した穴はただの穴と傷でしかないが
それで満たそうとする僕は青臭い
針とステンレスが織りなす傷と穴は僕を魅了するには十分過ぎるものであった
ニードルを刺した時の甘い痛み
「っ」という吐息
貫通しようとしている時の耳が途端に熱くなる感覚
それら全てが生きてると感じさせてくれる
大地を踏み締めるより日光を浴びるより人と話すより
痛みを感じている時の方が遥かに愉快である
痛みが織りなす生と性のハーモニーに僕は釘つけになった
その証拠に腕はうっすらと線が浮かび上がり
指でなぞると点字ブロックでも触っているような手触りだ
僕は痛みに夢中になっているかもしれない
虎に殺されそうになる夢を見たことがあるが
その時も乳頭が痛く主張していた
腕の線が出来た時もそうであった。
その時は自分でも戸惑ったのだ
はて異常に生まれた覚えはないのだがね。
生まれは通常でも育ちが異常になったのだろうか
変態的な性というのは一度始まれば加速していくばかりである
通常というのは逃げ足ばかり早くてまったく嫌になる
異常に小指を入れかかればもう遅い
異常へ全身浴するのだ
通常へと手を伸ばしても届かず異常へと落ちていくしか方はない
そうして僕は通常のフリというのを覚えた
これがあれば人間関係は可も不可もなく進んでいく
その代償として自分がわからなくなったり人が信用できなくなったりする
それを使ううちには普通が分からなくなり全てを疑うようになる
みにくいアヒルの子と言うが僕はみにくい人の子だ
みにくいアヒルの子は最終的に白鳥と出会い
けれど、カモや剥製のおもちゃなどに裏切られた経験から自分でその地を去ろうとする
けれど白鳥達に引き止められアヒルの子は群れになり
嬉しそうに白鳥と一緒に泳いでいくというというお話である
アヒルの子ではなく白鳥の子だったのだ
アヒルの所にいたから受け入れられなかった
ただそれだけだ。環境の重要性が分かる良いお話だ
いじめにも同じことが言えるだろう。
異常に浸かりきった人間は痛みに溺れていた
痛みに溺れ紅潮していた痛み耐えようと息が上がっている
それを僕は興奮と捉えたのかたただの癖であるか
穴を開けた直後耳の裏にドロッと溢れ出す血液
その前の痛々しい程の痛み
僕は痛々しい甘美を噛み締めた。
薔薇が骨になる程裸にされた後
花弁という服たちがジリジリと踏み潰される様な感覚
そのくらいどうしようもない痛みなのだが
そうであると同時にどうしようもない愛好なのだ
暗い心に痛々しいほどに赤いものは僕の心を明るくしてくれた。一時的な物だけれど。
痛さに耐える熱さか心の高鳴りからくる熱さか分からなかった
結局は上手くいなかったけれど僕の耳には跡が並んでいる
それだけで満たされている。
痛さと跡、そして嗜好の為に僕はこれからもやるのだろう
月夜なんて時間帯では無くなってしまったが
時計が狂った体内ではまだ月夜だ
太陽と生活音は無視させてもらおう。
世間からあぶれるのは簡単だ
けれど世間は世間だ狂っている体内時計に任せちまえば
世間など何も関係なくなる
体内時計が狂うとやはり意味不明なものを生み出す様で
非常に睡眠必要性が分かる分だ
まぁけれど僕の時計はこれからも狂い進むだろう
意味不明なものを生み出しまた普通からあぶれていくのだ
自己嫌悪からくる自傷でまた普通からあぶれていく
普遍のループだ
あくまで全て自分の意見であることをお忘れなく。
意味が分からなかったそこの君はまだ世の中のいう普通という物からあぶれていないかもしれない。
月夜
3/7/2024, 9:23:54 PM