H.N.

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「病室」

白く無機質な部屋、部屋の中心に一つベットがポツンと存在している。
そのベットの近くにはピッピッと電子音を流している機械があり、何もないこの部屋ではただ一つの音。
何も特徴のない真っ白な空間の中で白く清潔なベットに黒を白の中に散らせている存在が一人、長い髪は長いことここにいたことを象徴していて、その病的な程に白い肌は、太陽に当たっていないからだろう、この部屋は窓は一つしかなく、その唯一の窓ですらベットには届いていない。
本当に白で包まれた部屋。黒という存在が異質にも感じられるだろう。
だが、この部屋を異質に感じさせている張本人の長い睫毛に枠どられたその目は閉じられていて、その瞳を外に映し出すことは無い。
毎日見る自分の姿、もう飽き飽きしていまうほど見たこの身体。目を覚まして欲しいけれどどうしようもできない、本人ですらわかっていない自分に戻る方法。
私は高校の帰り道、歩道に突っ込んできた車に轢かれ、こんな体になってしまった。私の家は所謂大手企業の社長で、私は社長令嬢というもの。お母様もお父様も私のことは愛してくれないけどね、成績は必ず全て一位を取って、運動も、友人関係も、社長令嬢という私を望んでいて、それを遂行する。できなければ何があるなんて言いたくない、本当、あの人たちは周りに上手くやるからバレたりしないんだけどね。
私は望んでいない。あんな日々に戻るなんて。でも跡継ぎとしての私の利用価値はあって、目を開けることを望んでいる、?
嗚呼、毎度の事ながらだけど、愛してほしいなぁ。こんな私だけど、すごいねと褒めてくれれば何だってしたのに、私の存在を肯定して優しく頭を撫でてくれれば、もっと頑張ったのに、戻りたいと、そう思ったのに。
でももういいんだ。もう、遅いから。
本当は知っている。ただ戻りたいと願えばいいんだ。そしたらこんな自分を眺めるだけの日々はなくなるのに、でも、でもやっぱり、望んでしまっている、希望を持ってしまう、期待してしまう、あの人たちに、お母さんと、お父さんに。
もう一年くらい経つのかな、それでも二人が私に会いに来たことはない、ただただ広いだけの病室に飾られる花はない、見舞いの品だって一つも、私の目が閉ざされたあの日からずっと。
あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ぁぁあ、なんで来てくれないの、なんで、もういいかな。
待って、眺めて、眺めて、待って、待って、待って、待った、待ち続けた、でも来なかった。この場所から動こうとしなかったけど。
看護師が換気として開けた病室にあるただ一つの窓、カーテンがひらひらと揺れていて、私の心境など露知らずに当たる太陽の光を気持ちよさそうに受け入れている。
私は窓枠を越え、空に向かって歩みだした。

重力のある世界に。



───グチャ......


そんな音が、最後に、何もいない世界に、木霊した。

8/2/2023, 11:17:34 AM