KEATON

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川の記憶を歩くものたち

春の終わり、まだ朝の冷たさがわずかに残る舗道を、二羽のカモがゆっくりと歩いていた。水の匂いをまとった羽は、都会の乾いた空気の中でどこか場違いにも見える。それでも彼らは迷う様子もなく、確かな足取りで進んでいた。

このあたりには、細く短い川が流れている。かつてはもっと広く、もっと深く、空を映していたという話を、近くに住む老人がしていた。今では護岸に囲まれ、流れも穏やかすぎるほど穏やかだが、それでも水は絶えず、どこかへ向かっている。

二羽はその川から上がってきたばかりだった。片方が立ち止まり、首を伸ばして周囲を見渡す。もう一羽は少し遅れて歩みを止め、その背中に寄り添うように並んだ。言葉はなくとも、互いの存在を確かめるような静かな間がそこにあった。

車の音が遠くで響く。人の気配もある。だが二羽は慌てない。ここが危険でないことを、すでに知っているかのようだった。あるいは、危険であっても歩くしかないと、知っているのかもしれない。

ふと、風が吹いた。川の方から湿った空気が流れ込み、アスファルトの匂いをやわらかく包む。その瞬間、二羽の体がわずかに揺れ、同時にまた歩き出した。

彼らはどこへ向かっているのだろうか。餌場か、それとも休める場所か。あるいはただ、流れに導かれるままに歩いているだけなのかもしれない。

しかしその姿には、不思議な確かさがあった。失われた川の記憶を、身体のどこかに刻み込まれているかのように、彼らは迷わない。

やがて二羽は舗道の端へとたどり着き、小さな段差を越えて再び水の方へと向かっていった。コンクリートに囲まれたその流れは、昔の面影をほとんど残してはいない。それでも、水は水として、彼らを迎え入れる。

その後ろ姿は、どこか懐かしい風景の断片のようだった。人が忘れてしまったものを、ただ静かに運び続ける存在。

二羽のカモは、今日もまた、川の記憶を歩いている。

5/1/2026, 11:25:09 PM