テーマ:海の底 #69
突然出会った人外と人間のハーフの男の子は、僕たちが兄弟だと言う。急なことで頭が追いついていない僕ーー
「えっと…。君は本当に僕のことを探していたの?」
『勝瑠(すぐる)。僕の名前』
「あ…。勝瑠」
僕はそう言って訂正する。
『やっぱり真兄さんは、僕のこと覚えていないんだね』
やっぱりという言葉に引っかがった。やっぱりってなんだ?
『真兄さんは、自分の両親のこととか知ってる?』
僕は何も言わなかった。
『おいおい…。真の弟だか、なんだか知らないが。いきなり出てきて話を勧め過ぎじゃねぇか? 真だって、まだ状況把握とかできてねぇだろ。あんまり焦らせるなって』
シャドウが珍しくまともなことを言った。
勝瑠は僕を見つめてから、
『そうだね、今言っても疲れているよね。分かった。また後で話そう』
勝瑠はそう言って、部屋を出ていった。部屋にはシャドウと僕の2人きり。
「シャドウー」
『シッ』
シャドウが何かを感じ取ったかのように、ドアの方向を見る。
「なんだ?」
僕はそう言って、ドアの方向を向いたが誰かいるわけでもなかった。
「どうしたんだよ、シャドウ」
『なんか、違和感がある』
シャドウは体を硬直させている。嘘ではなさそうだ。
「僕は何をすればいい」
小声でいうと
『そのままでいろ』
そう囁かれた。
ガタッ!
物音がしてそこに向けて一直線に体を滑らすシャドウ。
『捕まえ…た』
そう言って、シャドウが手にしたものはトカゲのようなものだった。なんだ? トカゲにしては変な紋章…。
そう思ってみていると急にトカゲが姿を消した。
一体何だったんだ…。
僕がそう思っていると、急に僕に眠気が襲う。
「ーこと、真!」
一体どこなんだ、ここは!
僕は目が覚めるとあの部屋ではなく、グラグラと揺れるなにかの中にいた。潮の香りが微かにする。
船? 船に乗っているのか?
僕はなんとか状況を理解しようとした。
「真! よかった。無事か」
そう言って手を握る人は大きい男。
「早く安全なところへ!」
そういう女の人は僕の手を引く。
この船は沈みかけているようだ。よく見たら足元まで水が上がってきていた。
「勝瑠は? 勝瑠はどこだ!」
そう言って、男は誰かを探す。勝瑠…聞いたことある名前だな…。と思っていると一気に波が強くなった。
かと思えば水の中に引きずり込まれた。
暗い、何かが落ちてくる。それを一緒にいた女の人が僕に落ちてこないようにと守ってくれた。
この人は一体誰なんだ。わからない…。わからないけど。何故か安心する。
そんなことを思いながらも、ずっと体は沈んでいく。船とともに。
その時、ボコボコボコボコッ。という音が聞こえた。救助船が来たみたいだ。
女の人は僕を救助船の周辺まで運んでいくと手を離した。そしてまた海の底へと潜っていった。
あなたは一体誰…?
そう思いながらも、視界がだんだん明るくなっていった。
そして、現実に戻されたのであった。
1/20/2023, 1:25:03 PM