「終点までご乗車ですか?」
面倒臭そうに駅員が言う。
「……はい。…すいません。」
かすれた声でそう呟く。すると駅員は慌てて、
「ああ、すいません。こんな態度で…。ただ、終点まで乗る方は珍しいので。ほら、終点より5つほど手前の駅の方が乗り換えもありますし、都会でしょう?何をされに?お仕事でしょうか?」
…言えない。所詮、自分のやっていることはニート同然だった。まともに言える様な職にもついてない。数十秒間黙り込む。駅員は何かを察したのか、
「すいません。プライベートですもんね。ごめんなさい。あ、これ、切符です!」
と、切符を差し出してきた。
電車に乗ると、通勤ラッシュを過ぎたあたりなのか人はまばらだった。
「これで、ダメならもう終わりにしよう。」
揺れる車内を眺めながら、息をフッと吐く。
ここまで何も言わずにずっと駆けてきた人生だった。
上手くいかない方が多かった。
それでも諦めなかった。
でも、どんなに諦めが悪い自分だとて心が折れてしまう事だってあるのだ。
その日は偶然か?はたまた必然か?
自分の夢への終点が見えてしまう。
こんなにも残酷な、夢への絶望。
いつの間にか、駅から出ていた。
外に出たからなのか、元々人がいないからなのか。駅前というのに人気はなかった。
目指すは、駅前のビル12階。ふらつきそうな足をしっかりと地面を踏みしめる。
「大丈夫。自分なら、きっと出来る。」
それは、今日初めて自分にかけた唯一の励ましだった。
夕方。電車は満員だった。笑い声で車内は溢れかえっていた。
「いいと思います。これなら、きっと大丈夫です。絶対に。凄いと思います。よくここまで…諦めなくて、本当に、本当に、良かった…良かったです…。」
言われた言葉を思い出す。あたり前だ。自分は諦めが悪いのだ。本当に、本当に、夢みたいだ。
車窓を眺める。トンネルを抜けて景色がどんどん変わっていく。それは明るく、初めて見るはずではないのに、初めて見るような絶景だ。まるで自分が馬のように駆けていくようだ。
これまでの自分とは、今日でサヨナラだ。
そう思った。
どこからか、チャイムが聞こえる。
それは、今までの自分への終点を告げるチャイムだった。
8/10/2024, 2:47:07 PM