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「風邪」


風邪が流行する季節、街はいつもと違う雰囲気に包まれていた。冷たい風が吹き抜け、木々の葉がざわめく。人々はマスクをつけ、咳をするたびに周囲を気にする。そんな中、私は自宅で静かに過ごしていた。

ある朝、目が覚めると、喉の痛みと微熱を感じた。まさか、風邪をひいてしまったのか。体を起こすのも億劫で、布団の中でじっとしていると、頭の中に不安が広がった。仕事のこと、友人との約束、そして何よりもこの風邪が長引いたらどうしようという思いが、心を重くした。

その日、私は自分を励ますために、好きな本を手に取った。ページをめくるたびに、物語の中に引き込まれ、少しずつ気分が晴れていく。しかし、体調は一向に良くならず、午後になると、再び熱が上がってきた。仕方なく、薬を飲んで横になることにした。

その時、ふと窓の外を見ると、隣の家の子どもたちが元気に遊んでいる姿が目に入った。彼らの笑い声が聞こえ、私の心に少しの羨望が芽生えた。「あの子たちのように、自由に遊びたい」と思った瞬間、風邪のせいで動けない自分が情けなく感じた。

夕方、母から電話がかかってきた。
「元気にしてる?」
「大丈夫、ちょっと風邪をひいただけ」
私は答えたが、心の中では不安が渦巻いていた。
「無理しないで、栄養のあるものを食べて、しっかり休んでね」
と優しく言ってくれた。その言葉に少し救われた気がした。

夜になると、静かな部屋の中で、私は自分の体と向き合った。風邪は一時的なもので、必ず治る。そう思うと、少し気持ちが楽になった。明日には、また元気に外に出られるかもしれない。そんな期待を抱きながら、私は眠りについた。

数日後、ようやく風邪が治り、体が軽くなった。外に出ると、青空が広がり、温かい日差しが心地よかった。隣の子どもたちが遊んでいる姿を見て、私も思わず笑顔になった。風邪をひいたことで、日常の大切さを再認識した。

これからは、健康を大切にし、毎日を楽しむことを心がけようと決意した。風邪は私に、静かな時間の中で自分を見つめ直す機会を与えてくれたのだ。



                立花馨

12/17/2024, 10:02:30 AM