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・短めver.・

この季節になると僕はいつも
紫陽花がよく似合う貴女を思い出す



・長めver.・

雨がしとしと降っている。
この時季、雨が続くのは仕方ないとはいえ毎日毎日雨ばかりだと気分は少し憂鬱になってくる。
そんな憂鬱気分で帰路につく途中、傘も差さず空を見上げながら雨に濡れる一人の女性を目にし、思わず僕は
「風邪ひきますよ」
そう声をかけて差していた傘を女性に差し出した。

女性は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに穏やかな笑顔へと変わり、そして空へと視線を移す。
「私、雨が好きなの」
「そうですか……僕は雨苦手です。今も少し頭が痛くて」
そう言いながら僕もまた視線を空へと向ける。
降り止む気配のない雨に気分は下がる一方だ。

「それは大変ね」
「いえ、いつもの事なので」
「じゃあ……今度は私が」
ありがとう、そう笑った彼女の頬には見慣れた絆創膏。
確かあれは数日前に妹から貰った絆創膏と同じ柄だ。あれ?僕はその絆創膏をどうしたんだっけ?
思考をグルグルと巡らせていると女性に抱きつかれ、驚きに僕の頭は真っ白になり、
何も考えられなくなって力の抜けた手からは傘が離れ、地面へと落ちていった。

「もう一度貴方に会えて良かった」
本当にありがとう。そう言ったのが最後だった。
気付けば彼女の姿はなく、いつしか雨は止み、雲の隙間から日差しが見えている。
そして彼女の居た背後には雨に濡れた色とりどりの紫陽花が咲き誇っておりその中で一つ、見慣れた絆創膏が巻かれていたのだった……


嗚呼、そうか。
僕はその絆創膏を貴女の為に、


『梅雨』#7

6/2/2023, 9:11:46 AM