NoName

Open App

時計の針

子供の頃、4歳だった私は父が作った時計を見るのが好きでした。様々なデザイン、形一つ一つが父の手によって丁寧に作られたものだった。私の好きなキャラクターの時計を作ってくれたこともあった。父はいつも私によく優しくしてくれた。母は行方がわかっておらず、机に
( さよなら、今までありがとう。そしてごめんなさい )と書かれた紙1枚だけが残っていた。母の行方は誰も知らない。

「お父さん!この時計すごくかっこいい!」
「そうかーお父さんの時計気に入ったか?」
「うん!お父さんが作った時計ぜーんぶだーいすき!」
無邪気で元気な私を見つめて微笑む父の顔は心の奥底から嬉しそうだった。しかし、時々父の顔からは心のどこかで悲しそうな顔をする時があった。きっと母のことを思い出してしまうのだろう。その夜、父は母から貰った腕時計を見つめてひとりで呟いていたのを目にした。
「一体…お前はどこにいるんだ。いつ帰ってきてくれるんだ。」と涙をポツポツと流していた。私はお父さんが心配になった。
月日が経ち、父は若年性アルツハイマーという病気を患ってしまった。父はまだ28歳でした。父は信じられなかった。父は自分の我が娘の記憶も妻の記憶も全て忘れてしまうのが怖かった。娘のことを忘れてしまったら娘を傷つけてしまう。それに忘れてしまうのは自分も苦しい。そう思った父は、自殺をしてしまった。私はまだ小学1年生だったので一人で生きていくのはとても困難だった。親戚の人が私を引き取ってくれたのです。

両親ともなくした私は耐えれなかった。あの頃の時間が戻ってきて欲しいと願い続けてきた。あれから10年が経ち、私は親戚の人が授業料や制服の費用などを免除してもらい高校生活を過ごしている。

「お父さん、どうしてなの。どうして私を置いて…。」
屋上で空を見あげ泣いていた。その時、メガネをかけた男子生徒が「大丈夫ですか?」と言った。
私は泣いてることを隠し涙を拭い「大丈夫です!」と言った。しかしその男子生徒は言った。
「嘘つかないでください。もし辛いなら隠さず泣いてください。」その言葉を聞いた瞬間、再び涙を流してしまった。男子生徒は学ランの上着を脱ぎ私の顔を隠すように私を覆った。しばらく泣き続け、ようやく落ち着いた。

男子生徒は上着を置いたまま「では、僕はこれで。」
そう言って去っていった。少し楽になった気がする。

家に帰り、父が私にくれた時計の針を眺め、私は言った。
「お父さん。私、お父さんみたいな人に出会ったよ。まだ名前もクラスも知らないけどね。」
また会えたら……次はありがとうって伝えなくちゃ。

2/6/2026, 12:34:15 PM