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波が引いていく。
それを追いかけるキミが急ぐから、バシャバシャと大きな音が静かな夕焼けを台無しにしている。
「危ないよ」
僕の声は届いているだろうに、キミはお構い無しといった様子で波を追いかけてどんどん進んでいく。
たくしあげたズボンの裾が濡れてまるでレースの如く彩られているのに見とれている僕のことなんて気がついていないのだ。
水平線に沈む太陽がキミの背中に重なって、まるでスポットライトを浴びたかのようなキミは神々しく思え、僕の住む世界とは別の存在に思えて寂しい。
浅瀬で波を追いかけて足を右へ左へやるキミが踊っているシンデレラのように見えるのは、惚れた弱みってやつなのかもしれない。
「ねえ、もうそろそろ戻っておいでよ!」
随分と遠くまで進んだキミに呼びかけて、僕もひとしずく波飛沫を立てた。

4/8/2024, 9:56:38 AM