「風の流れに身を任せて生きたい。それが楽じゃん。
お前さ、そんなに頑張って何になるんだよ。ボクシングなんて辞めて地元のみんなで遊ぼうぜ。」
彼は、地元を離れてボクシングに打ち込む私にそう言った。
周りの言うままに、高校を卒業したら適当な会社で働く。休みの日は地元の友達や彼女と遊ぶ。早めに結婚して家庭を築くき、子供が産まれると自分の夢を子供に託す。
私の地元ではそれが理想とされている。
その理想を達成していない人はコソコソと近所で噂になる。
彼もその理想を掲げるうちの1人だ。
彼には夢もあったようだが、それを諦め、今は地元で理想とされる生き方に準じて生きている。
学生時代は仲が良かった私たちだが、いつからか疎遠になってしまった。人生への価値観が違うため、話が合わなくなってしまったのだ。
地元で理想とされる生き方。その通りに生きる彼から見た私は、「理想通りに生きることができないダメな奴」に見えているようだ。いつからかバカにしてくることが増えた気がする。
そう感じてからは会うこともなくなった。
バカにされると、苛立ちより寂しさを感じる。地元の友達と心が離れていくように感じるからだ。
彼のことは好きだった。しかし、彼もいつからか私の苦手な地元の人間と同じようになってしまった。
こうやって良い意味でも悪い意味でも皆大人になっていく。
寂しいが、こういうものなのかもしれない。
またいつか、話せる時が来たらいいな。
その時が来るのを、風に身を任せて待ちたい。
5/15/2024, 1:04:34 AM