狼星

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テーマ:楽園 #169

「楽園って人によって違うんじゃないかな」
突然、友達の菜乃(なの)が言った。
「何? 突然」
私は少し笑いながら言った。
「ううん。本の話」
「あぁ。さっき見た小説?」
私がそう言うと菜乃は頷く。
さっきまで本屋にいた私たちは
近くの公園のベンチに座っていた。
『私の幸せな死に方』
たしかそんな感じの題名の小説だった。
なんで『楽園』という言葉が出てきたかというと、
その小説のすぐ近くのPOPに書かれていたからだろう。
『楽園って何? その答えがわかる!』
そんな感じだった気がする。
私はそんなに深読みしなかったけど、
菜乃にとってなにか引っかかるものがあったらしい。
「『楽園』求めて、人は死ぬのかなぁ? だって生きているときのほうが楽しいって言うじゃん?」
「誰から聞いたの?」
「いや、別に…」
菜乃は他の人と少し違う。
時々、変な言い回しをする。
まるで『死者が見えている』かのように。
ずっと引っかかっている。
菜乃は私にそれを隠そうとしている。
私はそれに気づいていたけど
気づかないふりをしていた。
いつか菜乃が自分から言ってくれることを信じて。
でも聞いてしまった。
もう後戻りはできない。
そこにどんな真実が待っていたとしても、
私は菜乃を受け止める。
それが私にとって
『楽園』に近づく一歩な気がするから。

4/30/2023, 12:25:57 PM