狼星

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テーマ:小さな命 #104

「どうだった?」
ラックさんが聞いた。
「なんだか…懐かしい気持ちになりました」
「懐かしい…?」
「はい…。初めてあったのに、おかしいですよね」
僕は自分の口から出た言葉を否定した。そう、こんなのおかしい。しかし、ラックさんの答えは予想外だった。
「わかる。僕も懐かしい気がしたんだ。会ったことないのに会ったことある。初対面だとは思えない、なんでだろう…」
同じふうに思っている人がいたことにびっくりして、思わずラックさんをじっと見つめてしまう。
「あ、もしかして僕と思っていること違った?」
僕の視線にラックさんは少しオドオドしていた。僕は首を横に振る。
「えっと…。気持ちがうまく伝えられなくて…。でも、それを補うような言葉遣いで…凄いなって」
僕がそう言うとラックさんの耳が赤くなった。
「ま、全く〜。お世辞上手なんだから〜。さては、真くん世渡り上手だな〜?」
照れ隠しなのかそっぽを向きながら言うラックさん。年上の方に言うのもおかしいかもしれないが、可愛いと思う。
「それにしても、彼の本読みたくなっちゃった。まだ発売日は先かな〜」
「僕も読みたくなりました。さっき他国にも販売されるって言っていましたけど、僕が住む国にも…届くでしょうか」
僕がそう言うと、ラックさんはふっと笑った。そして、
「もちろん。なんなら、手に入らなかったら僕が送ってあげる」
「え…?」
「だって僕たちもう友達でしょ?」
友達…。そう言ってもらえたことが嬉しかった。僕は頷く。
「じゃあ、これからは敬語なし! 僕のことはラックって呼んで! 真!!」
僕は少し戸惑いながらも
「よろしく。…ラック」
そう答える。ラックは満足気な笑みを浮かべた。
『随分、仲良くなったみたいじゃないか』
「うわっ!」
僕は急に聞こえた声にびっくりして跳ねる。
「ララキ、いつから聞いていたんだい?」
『今来たところだよ』
ラックとララキの会話を聞いていると
「ラクラ!! やばい! バレるよ〜!!」
そう言って駆けてくる人影。ミデルさんだ。
「ラクラ!! お母様があなたを探しているわ! 今すぐ王宮に戻って!!」
「それはやばいなぁ…。真、また今度ゆっくり話そう」
ラックがそう言ってさっきは赤かった顔が今度は真っ青になっていく。
「わかった。またゆっくり話そう」
僕がそう言うとラックとミデルさんは去っていった。

『随分と仲良くなったじゃないか。ラックと』
「まぁな」
『珍しいんじゃないか? 人間とだと』
「そうだな」
『さっきまでのラックとの話し方と違うのはなんでだ?』
「やっぱり聞いていたのかよ」
僕がそう言うと、バレた? というようにいたずらっぽく笑うララキ。
『まぁ、力になれることならやるよ。人外ハッカーとしてもこの国と…。ラックと真の架け橋としても』
「それは……。ありがとう」
『そういうとこだよな…。真って』
「何が?」
『別に』
キョトンとしている真に、何で人間にはモテないんだろうなと思うララキであった。

          ☆★☆★

友達。
僕はその響きに苦い思い出が重なる。
友達、かつてはそう思っていた人に裏切られた。僕はそれからあまり深い関わりを持つことを避けていた。
でも、彼は違う気がした。
だから僕から彼に友達といった。正直怖かった。
彼に友達じゃないと言われたら…と。
でも彼は、頷いてくれた。嬉しかった。彼と友達になれることが。また、会おうと約束してくれたことが。
「何かラクラ、ニヤニヤしてる」
「え…? 本当?」
「うん。嬉しそう」
隣りにいるミデルにそう言われ、思わず手を頬に当てる。
「楽しかった?」
「うん。凄く」
「今度は私も混ぜてもらおうかな」
ミデルはフフフッと笑った。
「そうだね。また、会いたい」
僕はそう言って青い空を見上げる。新しい小さな命が芽吹くように、新しい友情が芽生え始めている気がした。

2/24/2023, 12:55:35 PM