かやのですよ

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愛があればなんでもできる?


僕は電車に揺られながらふとある日誰かに言われたときのことを思い出した。

『記憶には声が残らないらしい』どこかで聞いたことだった。

実際、確かに保育園の先生やその時の友達、中学生のときの友達の声や先生の声、ましてや母親や兄弟の声までも思い出せと言われても思い出せない。

ただ、僕には昔から残っている声がある。少し声が高くて、どこかふんわりとした優しい声。母親や親戚の人たちや友達の声でもない。でも確かにどこかで聞いたことのある声。

その声は僕じゃない名前を愛しそうに呼ぶ。でも僕はその名前がどこか他人の名前とは思えなかった。

パッと思いついたのは前世の記憶。前世の僕はその人の声が好きだったのかもしれない。好きすぎて、今世の僕にまで残しておくような人。

昔から探しているその声は、どこにも居ない。母親や父親に言っても信じてもらえないと思い、昔から僕はその声の主のことは黙って遠出してまでその声の主を探している。

父親や母親は中学の途中までは心配だからとついてきていたが、僕はもうそろそろ声の主に出会えると思い始め、もう着いてくるのはやめてくれと初めての抵抗をした。

それに呆気にとられてかは分からないが、分かったと言われ、それ以降はふたりともついてこなくなった。

だが、声の主は全然見つからない。僕は今でもずっと探している。その声の主を。僕は、前世の僕と同じようにその声の主に恋をしてしまっている。きっとその声の主を探そうと決意した日から。

僕はまだ顔も分からないその声の主を探している。街を歩き、電車を乗り継いで。いつまでも。

きっと見つかる。だって僕らは前世では恋人だったのだから。絶対見つかる。いや見つけてみせる。

その時、愛があればなんでもできる。なんて言葉を聞いたときのことも思い出した。

そう。だれから聞いたんだっけ。この話。

『ああ、そうか。この話もさっきの話も。君だったんだね。さくら。』

僕は知らない名前を愛しそうに呼ぶ。今まであったことのない声の主の名前を。

5/16/2023, 6:29:29 PM