🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

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044【花畑】2022.09.17

あれは……花畑といっていいのだろうか。一面に赤紫のタデの穂が、秋風に揺れていた。空には埋め尽くすほどの赤トンボの群れ。茜色の夕陽に照らされて、あの子が立っていた。
なぜ。この時代にあの子は着物を着ていたのだろう。不可思議な表情の面を背負っていたのだろう。
欠けたお茶碗をどこからともなくひろってきて、ふたりであかまんまを集めた。この季節に一年分を集めるのだといっていた。そうすれば、生き血をつかってご飯を炊かなくってすむから、といっていたような記憶がある。そんなおどろおどろしい会話をしていたはずなのに、いつものままごと遊びと同じように、ときにくすくすわらいながら、ふたりしてひたすらあかまんまを集めていた。

その晩、家に帰ったら、母親が血相を変えた。そのままおんぶされて、一目散に祈祷師のオバサンのところに連れていかれた。着いたらいきなり、はだかにされて。有無を言わさず、汲みたての井戸水を頭からかぶせられて。それから、塩で清めた新しい服に着替えさせられて。一時間ほど祈祷されたか。
「大丈夫。取り返したからね」
祈祷師のオバサンが皺の多い手で私の頭を撫でながらそういった瞬間、母親が号泣しながら私の体を両腕でぎゅうっと締め上げたのをよく覚えている。

あのタデの花畑はいったい何処にあったのか。二度とたどり着くことができなかった。
きっと、あの子は。鬼の子だったのだ。






P.S. たまたまですが、これが44番目の投稿でした。ちょっと、背筋が……。

9/17/2022, 1:42:05 PM