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俺は今、小さな面接官の前に座っている。


キョウコさんの息子だ。先日、予期せぬところで彼に出会ってしまったので、日を改めて正式に面会することになった。
ファミレスのあまりに目立たなそうな席に通してもらった。
注文を済ませ、ドリンクバーでそれぞれ飲み物を準備し席につくと、小さな面接官は俺をまっすぐ見つめた。子供の澄んだ瞳というのは、世俗のアカにまみれた俺にはまぶしすぎる。
俺は彼の横に座る母親としてのキョウコさんを現実として普通に受け入れている自分に軽く驚いていた。
彼女が俺をみて頷く。

「改めて、……改めてってわかる?」と俺がきくと
「わかんない」と小さな面接官は答えた。
「だよな。んじゃ最初から。初めまして。俺の名前は…」と言いかけたのを遮って、子供が言った。
「初めましてじゃないよ。この間、走ってきたじゃない。あと、僕このおじちゃんのシャボン玉パチンパチンて」


俺はキョウコさんの顔を見て「いえいえ知りません」と首をふって合図した。彼女も困惑している。
子供は続けて「あとさ、あとさ、カタツムリのおじちゃん!」

いつのまに俺には二つ名が…。おじちゃんていうこの声…。それにカタツムリ…どっかで言われたような。

「??………!!」

「あーっ!」俺の大声に店員が飛んできた。「お客様、他のお客様のご迷惑になるような…」俺はくいぎみに「スミマセン。」と店員に謝った。
子供はキョウコさんと「おじちゃん怒られてるね。」とたのしそうに笑っている。
おいおい、誰のせいだと思ってるんだ。

嘘だろ?あの公園での小さな出会いが、ここに繋がっているとは。何だか俺まで可笑しくなって、3人のテーブルは笑い声に包まれた。


お題「澄んだ瞳」

7/30/2024, 11:27:27 PM