前髪を直すふりをしてきみを見た。鏡に映るきみは今日もぼけっと眠そうだ。
「はよせぇや」
鏡の中のきみが気言うのでぼくは仕方なしに振り返る。
「そんなんしたってなんも変わらんし」
「いやいや、変わりますって」
だってほら、今まさにぼくの目の前に立つきみはいやにしゃきっとした人間に見える。きみのせいで、ぼくはいつだって鏡越しの恋に興じるほかないのである。
「先輩って隙がないからつまらん」
「そら人前やし」
それはちょっと嘘だと思う。だって鏡に映るきみは今日もぼけっと眠そうだった。
3/30/2024, 11:31:34 AM