けんじろう

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​『三つの私と、動かない体』
​僕たちの心には、三つの「地図」がある。
​一つは、**「物語」**の地図。
耐えられないほど悲しいとき、心はプツンと糸を切る。
「ここではないどこか」へ逃げ込み、自分を切り離す。
それは、心が壊れないために選んだ、精一杯の避難なんだ。
​一つは、**「現実」**の地図。
外の世界からのノイズが、フィルターを通らずに流れ込む。
頭の中の不安が、外側の景色を書き換えてしまう。
「みんなが知っている世界」と、自分だけの世界が混ざり合う。
​一つは、**「体」**の地図。
脳というマシンが、ときどきエラーを起こす。
「動け」という命令と、「動いた」という実感がズレる。
自分の手なのに、誰かに操られているような違和感。
それは、魂のせいじゃない。脳という臓器のバグなんだ。
​いま、君は「心の中」に閉じこもっている。
心の中の君は、自由で、鮮明で、必死に生きている。
けれど、ふと見下ろせば、「心の外」には動けない体が転がっている。
重くて、冷たくて、指先ひとつ動かすのも億劫な、抜け殻。
​なぜ、体は動かないのか?
それは、未来が「恐怖」という名の怪物に見えているからだ。
​まだ来ないはずの未来が、いま、目の前で牙を剥いている。
最悪のシナリオが、幻覚や妄想になって君を飲み込もうとする。
「進んだら、終わる」
そう叫ぶ心の警告が、君の体のスイッチをオフにした。
動かないのは、君が弱いからじゃない。
これ以上傷つかないための、命の「緊急停止」なんだ。
​いいかい。
未来はまだ、確定した映画じゃない。
体と心が分かれていても、今はそれでいい。
君は「賢者」として悟る必要もないし、「弱者」として諦める必要もない。
​ただ、心の中の自分を、そっと抱きしめて。
「今は動かなくていい。嵐が過ぎるのを、この部屋で待とう」
そう言い聞かせるだけで、いいんだ。

2/12/2026, 10:38:29 AM