明良

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ドンドンドン、と玄関を叩く音が聞こえる。誰かはわかっているが、一応覗き穴から見慣れた顔を確認してドアをあける。
「お疲れ。今日銭湯行かないか」
そう淡々と言ってきた彼女は、小学校からの友人で、隣の部屋の住人である。
彼女は、私が小学生のときに3軒隣の家に越してきて、私と同い年で一番近くに住んでいたから一緒に登下校することになったというのが始まりである。

祖母の代から地元に住み、町内に馴染み深く、幼稚園から家族ぐるみで仲が良い友達が大勢いた私とは違い、違う土地からきて周りと異なる空気をまとう彼女は、人見知りだったこともあり、他の子供たちから少し浮いていた時期も少なからずあったが、私、私の友達と次第に輪に入ってくるようになった。
彼女が学校にすっかり周りに馴染んで、あっという間に6年が過ぎた。私は中学受験で都心の学校へ、彼女は地元の中学へ進み、私たちが顔を合わせることはなくなった。

それまで友達に困ったことがなく、子どもたちのリーダーのようだった私は、人間関係で初めて挫折した。
人に避けられるような面倒な性格もしていないし、勉強は常に教える側だったし、運動だってできて、人の足を引っ張るようなところなんてひとつもないのに。
ここは地元と違って、誰一人知り合いがいなくて、私の地の利も意味がなかった。同い年の子より頭一つ抜けている学力や積極さも、ここでは普通のことだった。
入学前は、これで高校受験に怯えなくていいと得意になっていたのに、制服がダサくて校舎も古くても、馴染みのある顔ぶれとともに校則や勉強に文句垂れながら地元の学校に通う子が少しだけ羨ましくなった。

高校は中退して、高卒認定をとって大学に進んだ。実家から通えなくもない距離ではあるが、電車にのりたくなくて、大学の近くに部屋を借りた。

そして、大学は違えど偶然にも隣の部屋に越してきたのが彼女であった。
小学校時代、周りと馴染んでもどこか遠慮がちだったときとは打って変わって、今ではこうしてずかずかと突然部屋にくるようになった。母親づてに聞いたところ、彼女は高校では同じ中学の生徒はいなかったが、また気が合う友人をつくって、3年間過ごしたようだ。

たまたま持っていたものを自分でつくったように思っていた私と違って、彼女は引っ越してきたとき、クラスが離れたとき、中学に入ったとき、高校に入ったとき……、一人で輪をつくったり、入ったりということを何度かしてきたのだろう。時々彼女が尋ねてくるのは、哀れまれているからだろうか。

あのとき仲間に入れてくれたおかげだ、今度は私から誘いたいだけだ、と彼女は言った。
前もって連絡して誘えと返すと、他の人にはもっと遠慮するけど、お前は大丈夫でしょ、と早く支度をするように促された。

【突然の君の訪問】

8/28/2024, 4:46:41 PM